「よし、じゃあやろっか」
「このままやる気でござるか?」
「え、ダメ?」
張り切ったように腕を捲りながらきょとんと此方を見る彼女は、丈の短い、女子高生らしい格好をしている。こんな格好では、転ければ一発だろう。ここは駄目、というべきなのかどうなのか。
「えーっと、河上くん?」
見たい気持ちが0だとは言うまい。拙者だって健全な男子高校生だ。しかし、果たして倫理観として言わないでおくというのはどうなのだろう。 拙者のキャラから考えてもそれはどうなのだ。
「万、斉くん!」
「あ…ああ、すまないでござる。少し考えごとをしていたようで…」
そこまで言って、ふと気付く。今、拙者は万斉と呼ばれたような気がしたのだが、気の所為だったのだろうか。
思わずサングラス越しに舞の顔を見つめると、舞はほんのりと顔を赤らめ恥ずかしそうに微笑んだ。
「なんか、男の子の下の名前呼んだことなかったから恥ずかしいや」
「舞…、今度から拙者のことは名前で呼んで欲しいでござる」
「名前、で?」
こくりと頷けば、舞は暫く躊躇った後、ゆっくりと頷いた。
「なんだか、名前って特別な気がするね」
特別になって欲しい。と少しだけ思ったことは告げず、拙者はただこくりと頷いて同意を示した。そしてゆっくり肩を組んで、練習を始める。
「いち、に、いち、に、いち…あれっ!万斉くん、私できてる!」
「…本当でござるな」
驚いたことに、あれだけ出来なかった二人三脚がすんなりと成功した。それだけ、拙者たちの息が合い始めたということなのだろうか。
「きっと、私たちが仲良くなったから出来るようになったんだね」
笑顔の舞も同じように思っていてくれたことが嬉しくて、組んでいる肩を抱き寄せながら必ず本番で1番になってやろうと決意した。
たまには拙者が格好を付けるのも、悪くはないだろう。
体育祭まで、後1週間。
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