「う〜ん…なんでだろ?」


拙者の隣りでひたすら頭を捻っているのは、言わずもがな、隣りの席になった舞。彼女のことは晋助からよく聞かされており、なんとなくこんな人物であろうという推測はしていた。
しかし、まさかこんな一面があろうとは。


「ねえ河上くん、なんで
私の右手と右足は一緒に出るんだと思う?」


真顔で投げかけられた問いに、苦笑いを返すことしか出来なかった。(むしろ拙者が知りたいくらいだ。)

どうやら彼女は至極真面目にこの『男女混合二人三脚』という難題に挑んでいるらしかった。彼女自身は運動は苦手ではないと言い張っているが、果たして本当なのか。


「もう…なんで?」


彼女が声を上げたのは練習を再開して2歩進んだ時だった。


「ごめんなさい…なんだか私、二人三脚がものすごく下手みたい」


しょんぼりと顔を俯かせながら言う彼女の膝には確かに転んだ証拠である砂がついていた。

器用にも彼女は、絶対に1人で転ぶ。足を括っているのだから不思議なのだが、いつも拙者がバランスを崩しかけた時には既に転んでいる。拙者を巻き込まぬようにという配慮なのかとも思ったが、どうやらわざとではないらしい。
本人曰わく「そんな器用なことが出来るなら二人三脚なんて余裕ですよっ!」だそうだ。


「まあそう気を落とすな。体育祭までは後1週間以上あるでござる」

「うん…ありがとう河上くん」


舞がはにかむように礼を述べるのと、体育の授業の終わりを告げるベルが鳴るのは同時だった。