「つれねェなァ。そんな慌てて帰ることもねェだろ?」


目の前に居る高杉くんは既に近い私の顔に向かってにやりと笑いかける。ちょ、ほんとに近すぎるよ…!


「いやいやっ、あんまりお邪魔しても悪いし…!」

「遠慮すんなよ」


そう言いながらじりじりと近づいてくる高杉くん。え、待って待ってストップ!


「舞…」


いつになく真剣な表情の高杉くんに小さく名前を囁かれ、心臓が音を立てて鳴る。やば、ちょ、高杉くんかっこいい…
あー、顔きれー…


「高杉く…」


ピピピピピピピピ


「…チッ」


高杉くんは不機嫌に眉をしかめると、煩く鳴り続ける携帯電話をとって私から離れた。


「あ、ぶな…」


高杉くんが離れたことを確認して、小さく息を吐き出す。
危なかった。なんか、なんか私おかしかった。流されそうだったよね完璧に!


「あァ?…ざけんな」


後ろで電話をしている高杉くんをチラリと盗み見る。どうやら電話に集中しているようで、私の視線に気付いてないらしい。私は素早く荷物を纏めると、音を立てないように静かに出口に移動しだした。

なんか私、おかしいもん今日!このまま居たら流されそう…じゃなくてなんか大変なことになりそうだから帰ろう。うん、おかしいんだ今日はそうちょっと調子悪いだけ。

なんて心の中で言い訳しながら高杉くんに謝り、そっと居間を出て玄関へ向かう。よし、いける。


「お邪魔しまし「高杉く〜ん!遊びに来たぜよ〜!」

「ギャアっ!」


ドアに手をかけるといきなりぐいとドアが開いた。バランスを崩して転びかけるとぽすんと誰かに受け止められる。


「あ、ありがとうございます」

「なんじゃ晋助、ワシらが来たのがそげに嬉しいがか?」

「えっ?」


どうやら彼は私を高杉くんと間違えているらしくアッハッハと高らかに笑いながらギュッと私を抱き締めた。


「えっ、ちょ、」

「舞に触んじゃねェよもじゃもじゃ」

「わわっ!」


ぐいと腕を引かれ、今度は高杉くんの腕の中に閉じ込められた。ん?高杉くん…?


「なんでお前ェが玄関に居んのかなァ?」

「ごごごごめんなさい!」


私のささやかな逃亡計画は見事に失敗してしまいました。