舞はキッチンに食器を置いてくるりときびすを返すと、もとの居間に戻りテーブルにバサリと教科書を出した。普段から格別おっとりしているあの舞がこんなにテキパキ動くところは初めて見た。
やたら慌ててねェか?


「さあ高杉くん!どの教科からやる?」

「なんかお前ェ張り切ってんなァ?」


俺が隣りに腰を下ろしながら訊ねれば、舞は少し後ずさって俺から距離を置いた。…警戒心丸出しなのがバレバレなんだよ。


「き、気のせいだよ〜。早く終わらせて帰りたいなんて思ってないから、ね?」

「ほォ…」

「ほっ、ほら!さっさとやっちゃおう!」


全部口に出ていることに気付いているのかいないのか、更に張り切りだす舞。俺がそう簡単に帰してやるわけねェだろ?


「じゃあまずは英語からよろしくなァ?舞」

「う、ん…(悪寒が…!)」


ニヤリと笑って言ってやれば、舞は引きつった笑顔で小さく頷いた。

くく、覚悟しろや。
絶対ェ落としてやらァ。

胸の中で小さく呟いた決意は舞には聞こえていないだろうが、本能で何かを感じ取ったのだろう。もう一歩俺から距離を取るように舞が後ずさった。


「くくっ、そう怯えんなや」

「う…(無理だってば!)」


早くも少しだけ泣きそうになっている舞を見て、どう落としてやろうかとニヤリと口角を上げた。