夏休みも間近な、7月中旬のある日。今日も朝から気だるげな声が蒸し暑い教室に響く。


「えー今日も暑いしダルいんで朝のHRは省略。全員居るなー?」


やる気の欠片もない声に真面目に反応して、私の前の席からビシィッという効果音がつきそうなほど綺麗に手が挙がった。


「先生、高杉が居ません」

「またアイツか…じゃあ悪いけど舞、よろしくな?んでヅラはその暑苦しいモン取れ」

「…はあーい」

「取れません先生」

「いや、お前ならできるって、」


私は渋々席を立つ。
何故かあの日知り合ってから、高杉くんのお気に入りだと周りに認識された私はほぼ毎日高杉くんを迎えに行っている。
高杉くんは学校に早く来るのに何故か大抵屋上に居て(本当はいけないんだけど)煙草を吸ってる。
私以外が迎えに行っても教室に来てくれないらしく、先生に頼まれて仕方なく迎えに行く毎日。

小さく溜め息を吐いて、私に面倒事を押し付けるだけ押し付けて桂くんと楽しそうに話をしている銀八先生を少し睨んで屋上へ向かった。




「…高杉くーん?」


今日も煙草を吹かしているだろう彼の背中を想像して屋上の錆びた扉を押せば、予想は外れて彼の姿はなかった。


「あれ、今日は居ないのかな?」


何度か名前を呼びながらあまり広くない屋上を探し回るが、一向に姿は見えない。


「あ、」


ふと空を見上げれば青い空に白い給水タンク、そして飛び出た黒いズボンと白い上履きが目に入った。

きっと彼処、だ。