「子猫、見ないのかな」


約束したはずの桂くんの姿が見えないことになんだか寂しくなって、そっと騒がしい部屋を出る。廊下で溜め息を吐くと、すでに戦場と化した居間からスルリと子猫が出てきて向かい側の部屋へと入って行った。


「、猫ちゃん?」


子猫の入った部屋へ近付くと、微かに声が聞こえた。そっと扉の前に立って様子を伺う。


「…せっかく舞の家に来ているのに、俺は何をしているんだろうな」

「にゃあ」

「お前はいいな、この家で飼って貰えて」

「にゃあー」


声の主は間違いなく桂くんだ。どうやら猫と会話をしてるみたいで、それがやけに桂くんらしくて思わず笑ってしまった。そのままそっとドアを開けて声をかける。


「可愛いよね、その猫ちゃん」

「舞!?ななななんでここに…」


桂くんは目を丸くして相当驚いていて、慌てて猫を抱き上げると自分の膝の上に乗せて、下を向いて一心不乱に撫で始めた。


「いや、違うぞ。に、肉球が柔らかくて、この猫は可愛くて、それで」

「そうだね」


正直何を言ってるのかよくわからなかったけど、俯いて猫を撫で続ける桂くんの耳は真っ赤だったから、私は嬉しくなって小さく微笑んだ。

桂くんて可愛いなあ。