「あら舞ちゃん」

「舞!よかったネ!」


次々とクラスメートたちが舞に駆け寄っていく。俺も走り出したくなる衝動をなんとか抑え、その場に立つだけに止まった。


「おいおい舞、どうしたわけ?」


銀八がペタペタと教壇から降りて行く。と思ったら足をピタリと止めて舞を指差した。


「…何?それ」

「ね、猫です」


人だかりで姿は見えないが、小さくにゃあと鳴き声が聞こえた気がした。


「いやいや先生はそういうことを聞いてるんじゃねーんだけど。なんで猫連れて来てんの?」

「だって、雨の中一人ぼっちで可哀想で…。あ、でも誰かが傘を差してあげてたんですよ!」


ガタン、と思わず椅子に躓いてこけてしまった。みんなが不思議な顔でこちらをみる。こ、此方を見るな!


「何してんだ?ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ!…です先生」

「なんだァ?めちゃくちゃ動揺してんじゃねーか」

「さてはお前アルか?猫に傘やって濡れて帰るバカは」

「バカじゃない桂だ!」

「バカじゃん。自分で墓穴掘ったことに気付いてないとこが更にバカじゃん」


銀八とリーダーにニヤニヤと問い詰められ、傘を差しかけたのが俺だということがなんとなくみんなに伝わってしまった。
いや、別に俺は狙ってないぞ?舞の前でいいかっこしたいとかそんなんじゃないぞォォ!


「桂くんだったんだね」


腕の中に可愛らしい子猫を抱いた舞が微笑みながら近付いてくる。


「昨日本当は、傘忘れたんじゃなくてこの子猫にあげちゃったんだよね」

「あ、ああ…」


なんとなく気恥ずかしくなって席に着くと舞も子猫を抱いたまま隣に座った。そして眩しいほどの笑顔で、俺に話し掛けた。


「あのね、この子家で飼おうと思うんだ。だから桂くんもたまには様子見に来てあげてね」

「っ、いいのか!?」


突然の願ってもない申し出につい声が大きくなる。
え?いやいや違うぞ、俺は子猫に会えるのが嬉しいだけで別にそんな、舞の家に行けるぜヤッホイなんて断じて思ってないからな!


「うん。今週末とかどうかな?一緒に名前考えてあげようよ」

「そそそそうだな」


しかしいいのか、これは。今時の高校生はこんなものなのだろうか。こんなすぐにお家にレッツゴーなんていいのか俺ェェ!!
悶々と悩む俺に向かって、舞は嬉しそうに笑いかける。


「楽しみだね!」


舞の屈託のない笑顔を見て、俺の今週末の予定が決定した。