次の日、借りた傘を返すため俺は傘を2本持って家をでた。


『なんで2本?』

「昨日借りたのでな」


エリザベスはふーん、という看板を出すと後は黙ってついてきた。


「おはよう」

「おはよーアルヅラ、エリー」

『おはよーございます』

「リーダー、ヅラじゃない桂だ」


クラスメートたちと清々しい朝の挨拶を交わし席に着く。チラリと隣の席に目をやると、もうHRの五分前だというのに席に舞の姿はなかった。おかしい。
普段なら舞は誰よりも早く学校に来てみんなを明るく迎えている。こんなに遅いということは、今日は休みなのだろうか。
なんだか残念な気持ちで前を向くと、教室の扉がガラリと開いて銀八が登場し騒がしい教室はやっと静まった。


「はーいじゃあ今日も問題起こすなよお前らー」


舞のことを言うかと思いきや、銀八はやる気のない声で伝達事項を伝えるだけだ。舞の安否が知りたい。
だが自分がみんなの前で言うのは少し躊躇われた。誰か、聞いてくれェェ!!


「せんせー、今日は舞休みアルか?」


祈りは通じたらしく、リーダーが挙手をして銀八に訊ねた。さすがリーダーだ!


「ああ?俺は聞いてねーけど…ヅラ、お前なんか知らねェ?」


銀八の知らないと言う言葉にがっかりしていたら、突然話題を振られて驚いた。


「先生、ヅラじゃなくて桂です。とゆうか先生が知らないのに知ってるわけないじゃないですか」


知っていたら、どんなに良かったか。
チラリと浮かんだ言葉は心の隅に追いやって銀八の言葉を待った。


「確かになァ…。まあアレだ、とりあえず遅刻にしとくから、お前は今すぐそのヅラ取れ」

「取れません。ヅラじゃなくて桂です先生」

「ヅラでもカツラでも一緒だろーが。分かった、じゃあ外せ」

「訴えますよ先生」


銀八といつものやり取りをしながら、空いている隣の席に視線をやった。無人の席がやけに寂しげに見える。


「おっ、遅れました!」


途端にスパーンと勢いよく教室のドアが空いて、息を切らせた舞が飛び込んできた。

よかった。
無意識に安堵の溜め息を吐いた。