6月。
爽やかな春が終わり、夏へと変わるじめじめとした雨の季節。そんなとある梅雨の日に私は


「え、あれ?」


ザーザーと土砂降りの雨の中、傘を持たずに雨宿りをしているクラスメートを見つけました。


「桂、くん?」

「おお、舞か」


つい先日行われた席替えで隣の席になった桂くんは、あまり親しくない私から見ても真面目な優等生だった。たまに大真面目な顔をしてボケをかましたりするけれど。そんな桂くんが、梅雨のこの時期に傘を持ってないなんて。
不思議に思って声をかけながら近付けば、桂くんは少し濡れていた。


「どうしたの?」

「む、いや…傘を、忘れてしまったんだ」


明らかに目が泳いでる桂くん。分かりやすいなあ、本当に。そしてふと気がつけばいつも隣に居るはずの姿がない。


「エリザベスは?」

「わからん。多分もう帰ったんだと思う」


同じとこに住んでるの?とかたくさん聞きたいことはあったけれど、とりあえずそれらを全部飲み込んで私は鞄から折り畳み傘を取り出し、桂くんに差し出した。


「これ、よかったらどうぞ」


梅雨になると私は鞄の中に折り畳み傘を常備している。その上長い傘を持って行くから無駄と言えば無駄なんだけど、こんなところで役に立った。


「桂くん濡れちゃってるし、早く帰って着替えないと風邪引いちゃうよ?」

「いや、しかし…」


尚も受け取ろうとしない桂くんに笑顔で傘を押し付け、パッと屋根の外に出る。


「明日は天気予報によると晴れるらしいからさ!明日返してくれればいいよ」


桂くんにそう叫んでくるりと背を向けると、パシャリと水の跳ねる音がして腕を引かれた。


「舞、気持ちは嬉しいんだが…その、」


私が振り向くとそこには


「この傘…壊れているようだが」


骨組みの折れた傘を片手に苦笑する桂くんが立っていた。