「じゃあ、読み終わったら近藤くんに直接渡してくれる?」

「はい。分かりました」


どこか嬉しそうな屁怒呂くんにノートを手渡す。心の中に罪悪感は残ったけど、とりあえず近藤くんをいじけさせることもお妙ちゃんに殺されることもなくなって安心した。


「あの、笹木さん、怖がらないで話してくれてありがとうございました」


いや、正直めちゃくちゃ怖いんですけど。
出かけた言葉を飲み込んでなんとか笑顔をつくる。そんな私に屁怒呂くんはハハハと乾いた笑いを溢した。


「こんな顔だから、なかなかクラスにも馴染めないんですよ。もう3年目なのに、ちゃんとした友人も居なくて」

「屁怒呂くん…」

「笹木さんはすごいですね。僕が3年かかっても出来なかったことが、1ヶ月も経たないうちに出来ちゃうんですから」


言葉だけ聞けば少し嫌味のように聞こえてしまうその言葉も、屁怒呂くんが言うと本当に純粋な誉め言葉に聞こえた。それでも悲しそうな彼の表情に私も胸が痛む。


「ねぇ屁怒呂くん」

「はい」

「怒らないで聞いてね?」


私の言葉に、屁怒呂くんは不思議そうに首を傾げながらもゆっくりと頷く。


「屁怒呂くんは馬鹿だね」

「馬鹿、ですか?」

「うん。馬鹿だよ」


屁怒呂くんは怒るというよりも困ったような顔で私を見ている。分からないなら、はっきり教えてあげる。


「私は、屁怒呂くんと友達になりたいと思ったんだけどな」


確かに私も屁怒呂くんが怖かった。けど、今は屁怒呂くんがどんなに優しい人なのか知ってるから。


「ね、友達になろ?」

「い、いいんですか?」

「私がなりたいんだよ」


私の言葉に、屁怒呂くんは本当に嬉しそうに笑って頷いた。私も、もう全然怖くなんかない。


「本当にありがとうございました」

「ううん、こちらこそありがとう。これからよろしくね」

「はい!」


それから少しお互いの話しをして、笑顔で去っていく屁怒呂くんを見送った。視界の端に、有り得ないくらい顔が変形した近藤くんが(多分)嬉しそうな顔をして駆け寄ってくるのを捉えながら。

ああ、こっちも問題だ。