「失礼します」


一度来たことがあるというのはとても心強く、あまり緊張せずに職員室に入ることが出来た。


「おはよー舞ちゃん、これからよろしくな〜」


まあこんなユルい担任相手に、緊張しろと言うほうが難しいかも知れないけれど。目の前で白衣をだらしなく着てひらひらと片手を振る先生を見て、思わず苦笑が零れた。


「お早うございます、先生」


まだたった1回しか会ったことがないと言うのに、私は既にこの人に馴れていた。不思議と、嫌な気分にはならなかった。むしろ、どこか懐かしい感覚。


「んじゃ、早速教室行く?」

「はい」


白衣を揺らし立ち上がった先生の後について職員室を出る。廊下には先生のスリッパのペタペタという音がやけに響いていた。


「実はさー、あいつらにまだ言ってないんだよねー」


教室の前に着いた途端に何の脈絡もなくいきなりそう言われて、反応に戸惑う。一体何のことを言っているのやら全く分からない。そんな私に構わず先生は喋り続ける。


「転校生が来るなんて言ったらあいつら絶対ェ何かやらかすんだよなァ。しかもそれがこーんな可愛い子だって知ったら…!どーなっちまうか分かったもんじゃねー」


ぶつぶつとまるで独り言のように呟かれる言葉。え、これ私に話してるんだよね?


「そ、そうなんですか…」


何も言わないでいるのも失礼かと思い相槌を打つと、先生は私に向き直って勢いよく肩を掴んだ。


「そうなんだよ!いやでも舞ちゃんはなんも心配しなくていーからね、俺が守ってあげ…」

「どこほっつき歩いてたんだこの天パァァ!!」

「ぐはっ!」


先生が最後まで言い切らない内に教室のドアが勢いよく開いて、中から女の子が飛び出してきた。先生の頭に綺麗なドロップキックを決めながら。

…私、どうしたらいいんでしょうか。