校舎の隅で赤い花が咲いた。深い緑に守られながらその煌々とした花は艶めかしく人を魅了している。僕は窓の縁に肘を付いてそれを眺めていた。今日も、のどかだな。全開に開けた窓から心地好く風が吹いて、白いカーテンがふわりと揺れる。もうすぐ夏が来ようとしているのか白がやけに眩しく感じた。
「…はあ、」
小さく溜め息を吐く。僕は人には言えない趣向を持っている。これは友人や今までの恋人、ましては親には告げたことはなく、僕だけの秘密にしてきた。
だって、だってだって。
公立高校の養護教員である僕が他人の鼻血に興奮するだなんでこと、誰に言えると言うのだろうか。
もちろん和樹にも言ってない。(ていうか、言えないし。)
「ふぇんひぇー!」
突然、力強く保健室の扉が開き、聞き覚えのある声が僕を呼ぶ。
「ひっ!」
目の前には汗をかいた和樹が立っていた。見覚えのある部活用ジャージ姿。ていうかどうしたの!
「ふぇんふぇーひぃっふくらはひー」
「か、和樹どうしたの!なにそれっ…く、口切ったの?!」
必死に口元を押さえる手のすき間から真っ赤な血が見えてますけど!
「っちがふ、鼻血出た。ほら」
「へ?」
そう言って、手を退けると確かに和樹の鼻から真っ赤な血が滴っていた。あ。ドクンドクン。筋の通った立派な鼻から鮮やかな赤が肌を染めている。
「あ、口ん中入ってきた。まずっ、」
赤い血は飛び散ったのか所々、服にもついている。あれは早く洗わないといけないだろう。それにしても、そんな姿を僕に見せるなんて。
ああ、それは
「か、和樹」
「んー、あ。聞いてくれよ。後輩が思いっ切りぶつかってきてさー、血なんて久々に出たってのー」
和樹は部活中によくアクシデントを起こすけれど。僕の耳はサッカーの話を右から左に抜けていくだけで役に立たなくなっていた。ねえ、拷問なんじゃないの。これは。
辛うじて僕はティッシュを渡すと和樹は慣れた様に鼻下を拭き、小さくしたティッシュを鼻に詰めた。ああ、和樹の血。舐めたい舐めたい舐めたい。
いや、何を考えてるんだ。
「…ブツブツ(僕は教師。保健の先生。ぼくはせんせい)」
「南美?どした?」
「へ!?い、いや。なっなんでもないよ!」
血が舐めたいなんて思ったりしてません!
「くす、そんなにテンパるなよ。悪いな、血だらけできちまって」
「あ、」
優しい顔。確かに血は苦手だけど。違うんだよ、和樹。わかって欲しいなんて思ったりはしないけれど。僕にだって止められない感情のひとつやふたつぐらい、あるんだよ。
今だって、こんなにも
「目が潤んでる。可愛い」
急にちゅっと唇を合わさった。柔らかい感覚と共にジワリと鉄の味がした。
ああ、だめだってば。
「和樹」
もう抑えられない。
END