本日の君確率40%

「ほら、またした!」


 急に声が伸びてきて、俺を捕まえた。




「……は?」

 股下?また、した?あ、俺がなにをしたってことか。…え?

 怪訝なのが顔に出ていたのか、彼はすぐに新しい言葉を話した。


「ボフってしたでしょ!」

「…す、すいません江崎さん。何のお話か俺には理解出来ないんですが」

 彼の意味不明さには慣れていたつもりだったが、俺はまだまだだったようだ。

 江崎さんは拗ねた様に唇を尖らせ、大きめの眼鏡をかけ直した。中年に突入しそうな年代の大人がそんなことしたって、ひとつも可愛くない。

 少しして江崎さんは軽く責める口調で続けた。

「だからちーちゃんはいつも「ボフっ」てするの!今みたいに」
「はい?」

 またこの人、ちーちゃんって言ったな。っていうかさっきの話って。

「…ああ、布団の話スか」
「なにその顔!」

「い、いえ」


 僕は真剣なんだよ、と彼は怒っていた。何がですか。めんどくさい。布団はこんなにフカフカなのに、もう。それに、布団に「ボフっ」ってするから何なんだ? 俺はベッドの上で肘を着きながら、彼の方を見た。すると、へんてこなべっ甲眼鏡と目が合った。


「ちーちゃんは僕がキライ?」

 はい、出ました。脈絡無視。俺はもう慣れっこですよ。

 あと、捨てられた子犬みたいな目をして呟くのは反則だと思うんですが。


「あの、江崎さんが嫌いなら貴方のベッドで寝転んだりしないです」
「はっきり言うね」

 当たり前だろ。嬉しがるな、ばか。


「言って欲しいのでしょ?」
「…」


 …あ。今のは余分だった。この人は本当に判りやすいな。


「ちーちゃんはスキ?」
「何がですか?」

 「ボフっ」てすることがか?

「僕のこと、好き?」
「…それ、ずるくないですか」


「聞いてるのは僕。」

 すると、彼の整った口角がニヤリと歪んだ。こんなときだけ、その顔はずるい。大人なフリして、俺を振り回す。

 いつもそうだ。今こうしてベッドにいることが当たり前なのも、そもそもは彼の思い付きと身勝手な行動のせい。


 俺はこの人に振り回されている。



「……ガキ、」
「聞こえた!またそういうこと言う!」


「知りません」

「うわーいけないんだー先生の言うこと聞けない助手だって言ってやるぞー」


「言えばいいでしょ」

 助手にだって発言の自由はあるし、俺は先生のものじゃない。


「何でちーちゃんはそうなの?僕はちーちゃん好きなのに」

「…ばか教授。」

 さらっとそんなこと言うな。




「ちーちゃんこっちおいで」



 ああ、本当にこの人は。



 ずるい。

END


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