ひろすぎるしんしつ

 毎日、胸がズキンと痛んだ。でも、いったい何が僕の体を痛めているかは理解できなくて、それが嫌気がさしていた。

 僕はいつもの様にベッドに潜り込んだ。いつもの様に彼の大きなパジャマの上だけを羽織り、脚を出したままだ。それは付き合ったばかりの彼が呟いた一言のせい。夜しか見せない表情で微笑む彼を見ているだけで僕は溶けてしまいそうだった。


 僕はその「いいね」のために、この行動を意識せずに実行し続けている。



 僕は時計をちらりと見ると、充電器のコードに繋がれたままの携帯に手を伸ばした。電子で出来た呼び出し用のコール音が耳についた。


『もしもし?』

 電子音の向こうから、少し風邪気味のハスキーな声が響く。だめだ、ドキドキする。

 僕はバレないように深呼吸して、いつもの声を出した。


「あ。お仕事お疲れ様、僕だけど」

『ああ、どうしたんだ?』

 やっぱりドキドキする。


「…今日も遅いの?」

『すまない』


「ううん、いいよ。おやすみなさい」
『ああ、お休み』



 毎日同じ時間に電話をかけて同じ会話を繰り返す。これも日課になってきていた。

 僕は携帯を投げ捨てると、布団を被って目を閉じた。フカフカとした枕に顔を沈める。




 僕と彼が僕ひとり分の年齢差があったって、なんとかなると思っていた。実際、彼はいまも変わらず優しいし僕に愛の言葉を囁いてくれる。

 でも、体は放っておかれたままだ。もう3ヶ月も交わっていない。3ヶ月前も一回だけだったし。

 忙しいのはわかる。そもそも僕を養うために彼は働いてくれているのだけど。

 しかも、僕が働かなくていいように。(もう若くないくせに、無理しちゃって)

 少し前までそれでよかった。


 僕のため。僕のため。だから悲しい。毎日同じ布団で眠っているのに、眠っているだけだ。動いても落ちないようにと買ったこのベッドにした意味が無い。

 また昔の様にベタベタに甘やかされたい。僕が泣いても許してくれないほど抱いてほしい。
 あの大きな手で抱きしめてほしい。





「…ひく、」

 何故、涙が出るのだろう。こんな大きな家に住めて温かい布団に包まっているのに。

 かなしい かなしい かなしい。体が重たい。心と一緒に沈んでしまったみたいだ。







「―…、―…。」

 どこからだろう、声が聞こえる。


「ごめんな」


 ねえ、だれのこえ?


END


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