「ばか!もう知らない!」
そう言って泣きながらアイツは立ち去る。さっきの言葉なんて、聞くの何回目だろうか。
原因は単純。俺が浮気をしたから。と言っても、俺はただ女の子と遊びに行っただけなんだけど。あれって浮気なの?あれが浮気なら俺の知らない男と密室のスタジオで徹夜して曲作るアイツの方が浮気じゃないのか?
「さて、迎えに行くか」
けだるく首を回し、財布と鍵だけ持つと、玄関の扉を開けて外へ出た。今頃アイツはきっと公園で泣きながら唄を歌ってるはず。
お決まりのパターン。
俺が公園に着くと案の定アイツは歌っていた。背中を丸め、滑り台の上で空を見上げている。ひとりで小さくて、なんだか胸がいたい。
ああ 出会ったころの二人へ戻れないことを幸福に思えない俺は馬鹿だと君はいうけれど、
出会ったころの俺の誠実さを俺はまた見たいだけなんだ
泣かないで泣かないで
二人で星になれたら
それこそ幸福かもしれない
「…なんだよ、その歌」
「作った。」
「お前相変わらずすごいな。」
アイツは滑り台を降りてきて、興味なさそうな顔をした。
「これくらい誰でも出来る。」
「…CD出す度にオリコン載る奴が言うな」
テレビに出ない分、人気があるだぞお前は。
「ねえ、寂しいの?」
「は?」
急に何言うんだよ。そんな目で見るな。
「何か言いたいとき、手を開いたり閉じたりするの癖でしょ?」
「…なんだよ、」
アイツは俺の手をそっと握り、大きな瞳いっぱいに涙を浮かべていた。
「俺も寂しいよ」
「…ごめんな?」
俺は自然と謝罪を口にしていた。優しく頭を撫でる。
謝ったということは、こうなるのが分かっててしたんだろうな。ヤキモチ焼いて欲しいなんて女子か、俺は。
「不規則な仕事だけど頑張るからさ、遠慮しないで」
「…俺の前で頑張るなんて言うな」
「うん、ありがとう」
アイツはまた泣いてまた歌った。でも今度はハッピーエンドのラブソングだった。
俺は小さなこの手を離したくはなかった。
END