「掴まえた」
そう言って奴は俺を掴んだ。その笑顔からは何も読み取れなくて不安で仕方なかったんだ。
「なんで逃げるんだよ」
「手、離せよ」
誰も居ない階段で俺より5cmも高い正木は、息を切らしながら俺の腕を掴んだ。窓の外は夕日が沈もうとしていて、そこから伝わる風から秋の匂いがした。
「俺ら親友だろ?」
「親友は、あんなこと言わない」
屋上での出来事を受け入れなれなくて、目を泳がせる。
「でも本当のことだから」
「なんでっ!」
大きな声を出しかけて止めた。ドクン。眉を歪ませて優しく笑う正木。ダメだ、昔から俺はこの目に弱いんだ。
「好きになったら親友じゃないよな。ごめん、ミキ」
「なんでっ、だよ」
なんで謝るんだよ。謝るなら最初から言うなよ。
「ミキ?」
「なんで、好きとか、言うんだよ。」
正木がどっか行くなんて嫌だ。親友じゃなくなるのは嫌だ。
「ミキ?泣かないで」
「うるせ、泣きたく、て泣いて、るわけじゃ、なっ」
「よしよし、泣かなくていいよ」
「…やっ」
優しく抱きしめられて、それがまた嫌で涙が溢れ出した。
初めて会った時から、正木の黒く短い髪が格好良いと思っていた。俺より似合っている学ランも羨ましかった。でもそれは正木が好きだからなのだろうか。恋愛感情なんて知らないのに。
親友が求めることを差し出せない俺は泣き続けるしかなかった。
END