ほけんのせんせい [01]

「せーんせ」

 窓の外から、小さな声で愛しい人を呼ぶ。その声は俺がいつもするようなシュートよりも真っ直ぐ目的地に飛んでいった。

 先生は振り向き俺に気付くと花の様に微笑んだ。学校のマドンナ南美先生は保健室の先生。そしておれの恋人。まあ、どっちも男だけど。

 俺はサッカー部3年、中田和樹。病気とは無縁で元気だけが取り柄の俺は保健室なんてまるで接点は無く。

「どしたー?また怪我したの?」
「んな鈍臭くねーよ」
「あはは。なら、あんな怪我しないよ」

「(…たしかに)」
 そんな万年健康体な俺は先日、ビブスを真っ赤に染める程の大怪我をした。部活内での接触事故による怪我。

 簡単に言うと、1年のタカシがディフェンスで馬鹿して、それを庇った俺の膝をタカシのスパイクがパサーッと。
 痛みよりも人間同士の接触事故でもあんなに血が出るのかと関心したっけ。

 そのあと焦りからか真っ青になったタカシに連れられ即行で保健室へ。保健室のドアを開けたあん時の先生の真っ青な顔は未だに忘れられない。
 真っ青が二人。ひとりはすぐ帰したけど。


 まるっきり保健室に縁がなかった俺は、初めて見る保健の先生に驚いていた。美人だ。どストライクと言うか。それより男相手にこれだけときめく自分に驚いていた。


「す、すごい怪我だね」

 澄んだ瞳は震え、肌は白く艶めいている。髪はふわふわしたねこっ毛で、スラリと身長はあるのに可愛い人だと思った。
 とっさに首から緑のストラップでぶら下がった名札を読み取る。「南美」先生か。名前すら可愛い。

 そういやクラスの女子が保健医がカッコイイだの言ってたっけ。可愛い系じゃねーか。

「こっちまで歩ける?」

 先生はとりあえずと椅子の場所を指さした。

「まあ、ここまで歩けてるんで」
「あっそうだよね」
 先生は困ったように笑った。そりゃこんだけの血見たら動揺するよな。

 俺はひょこひょこ歩き、指示された椅子に腰掛けた。あ、座った瞬間から痛くなってきた。くそ、あほタカシめ。あとで一発殴ってやる。「珍しいね、中田くんが来るなんて」
「俺、縁ないから、保健室と。ね、せんせいくつ?」
「今年で24だよ」

 先生はテキパキと止血する。そのおかげで、血の付いた脱脂綿がいっぱいだ。

「わか。エリートじゃん」
「エ、エリートじゃないよ。中田くんは18?17?」

「18。俺、5月生まれだから」
「あー春生まれっぽい。あ、しみたらごめんねー」
「なにそれ いっ!」

 消毒液が膝に浸みた。超痛え。そんな俺を見て、先生は耳に髪をかけながら笑った。
 形の綺麗な耳とうなじのラインに見とれてしまった。

 白衣から見える細い手。白い首筋、綺麗な顔の輪郭や表情。この人の色っぽい仕種のひとつひとつに目を奪われる。

 そんな経験初めてだ。ドキドキする。



「ふふ、やっぱり男の子ってすごいね。こんな怪我してるのに元気そうだし」
「いや、痛いから。でももうすぐ試合だからせんせ、頑張って治してね」

 本気で痛いけど、余裕ぶって笑ってみせた。すると、いつの間にか先生は手を止めてじっとこっちを見ていた。

「なに?」
「え?っあ!む、無茶言わないで あと敬語でしょ!」
 そう言いながらも、必死に介抱する姿が可愛くてずっと見ていた。何度も目が合い、「そんなに見られたら失敗しそう」と笑った。耳まで真っ赤になった先生は先程と違い、焦りからかモタモタと包帯を巻き始めた。そんな先生に俺は恋心を抱いていた。

「(…この耳舐めたいぐらい可愛いなこの人)」

「中田くん、これは1ヶ月ぐらい治りそうにないよ?」
「え?は、まじかよ。」

「まじだよー」


 そう笑ってみせた姿が可愛くてしょうがないと思った。

 それから俺は怪我の調子がどーこー言って毎日保健室に訪れる様になった。


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