見えない包帯 [02]

 夢なのか。長い睫毛。すらりと伸びた背。夢を見ているのだろうか。手を伸ばす。それを陸くんは愛しそうに目を細め掴んだ。「聡さん」また名前を呼ばれた。

 16歳だったはずの彼は22歳になっていた。

「お、大きくなったね」
「フフッ、もー。先におかえりって言ってくれないんですか?」

「あ、ああ。おかえり」
「さとしさーん」

 すると陸くんは笑顔で俺にハグをした。驚いた。

「え」
「相変わらず素敵ですね。」

 抱きしめたままそう言われた。小さな声で「聡さんの匂いがする」と言われ、彼を見ると左回りのつむじが見えた。細いのは変わってないんだな。
 そう思ったら、状態がようやく掴めてきた。とりあえず抱きしめられているのはおかしい。

 スキンシップが激しい国に居たとはいえ、我々は男同士だ。



「上杉くん、」
「なんです?」
「もうそろそろ離してほしいんだが」

「…いやだと言ったら?」


「君がそんな事を言うとは思えないな。」

 私は優しく彼の頭を撫でた。すると「それはずるいです」と言いながら彼は手を離した。それからまた微笑む。やっぱり変わってないな。相変わらず美しい微笑みだ。


 綺麗に成長したんだな。こんな事、男性に思うのは失礼かもしれないが。



「聡さん、僕、頑張ったんです」
「ん?」
「手術が終わって、アメリカの学校に通って、医者になりました。そして貴方に会いたくて日本に帰って来ました」
「それって、」

 まさか。

「はい。僕、諦めが悪いんです。まだ貴方が好きです。」 ずるいのはどっちだ。
そう思ったが口には出さなかった。
 目の前で微笑むのは天使か悪魔か。神の前で誓った愛だってこのどちらかに惑わされたら揺らいでしまいそうで怖い。

 私だって所詮ただの男だ。



「上杉くん、」
「陸でいいです。陸って呼んで下さい、聡さん。」
「陸くん私には、」

「言わなくていいです。これでも僕、大人になったんですよ?」


 そう微笑む陸は妖艶で。ぽってりとした唇が艶やかだった。




「これからよろしくお願いします」

「こちらこそ」

 運命の歯車は俺の知らないところで動き出し、新しい日々が始まろうとしていた。


END


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