午後の紅茶と甘い雑誌

 もしも、家を買うなら夏涼しく冬寒い家がいい。だって俺も亮も暑いのは苦手だし、凍えそうなら毛布に二人で包まればいいのだから。

 なんて、たまにそんな事を考える。家を買うなら譲れないのが、焦げ茶色に光る古びたフローリング。小さい頃からの夢で、叶うならアンティークの様な家に住みたい。そこには窓から吹き込む清々しい風。俺はいつだって心地好い夏の妄想をする。

 俺は夏が嫌いだ。人は夏を自分のものにするために弄り過ぎだから。まあ、クーラーが嫌いなだけなんだけどね。

 だから今の時期はすごく嫌い。クーラーに当たりすぎて寒いんだけど。そう思いながら茶色のカーディガンに包まれた腕を摩る。

「アーキ、何見てるの?」
「んー?インテリアの本。一人暮らししようかなって」

 軽々しく言ってはみたけど、それが叶うのはまだまだ先なのは分かってる。(むしろ今すぐ叶うなんて微塵も思ってない)雑誌をめくっていると亮が紅茶を入れてくれた。

 今日はアールグレイだ。はあ、美味しい。

 俺は休日の午後の紅茶の時間が仕事以外で1番好きだ。亮はいつだって紅茶を入れてくれた。俺はいつだってコーヒーしか入れない(入れれない)からすごく幸せな気持ちになった。亮の入れる紅茶って美味しいし。昔「美味しいね」って褒めたら、「隠し味の愛情が効いてるからね」って溶ろける様な笑顔で言われた。そのあと、本当に溶けてキスしてしまった。俺ってば若い。


「そう。あ、コレ可愛いね。アキ好きそう」
「あ、本当だ いいなー」

 骨張った指で指したのは深緑の皮張りのソファーのページ。確かにちょっと80年代アメリカン風なのが可愛い。フローリングに合いそうだし。俺の趣味がよくわかっていらっしゃる。

 それよりも亮の骨張った指に口付けしたい。ああ、俺ってば若い。


「買ってあげようか?」
「ん?ふふ、いらないよ」

 俺はにこりと微笑んだ。「買ってあげようか?」は、亮の口癖だ。こちらの顔を伺いながら優しく尋ねてくるのだ。それをいつも断った。最早、習慣と言うか一種の儀式めいた何かがあった。

「本当に一人暮らししたいの?」
「ううん、別に」

 そう言うと亮はソファーにもたれる様に抱きしめてきた。重たいんだけど!

「ちょっ、りょ」
「ユキに嫌気がさしたらいつでもここに住めばいいから」


「…ふふ、ありがと」

 赤茶色くウェーブのかかった髪を撫でた。大きなゴールデンレトリーバーみたいだ。

「犬も飼いたい」
「ペットは却下。アキは俺だけ見てたらいいよ」

「なにそれ」
「はやくお嫁さんに来て、アキ」


 そう言って爽やかな口づけをされた。ドクンドクンと胸が鳴り、熱くなってきた。冷たい部屋が心地好い。亮はこれを狙っていたのだろうか。



「アキ、こっち見て」
「見てるよ」

「ずっと俺を見ててね」

「見てるよ」

 いつの日か家を買ったら二人だけで愛を語り合おう。ずっと傍にいる。ずっとずっと。
END


 next
back


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -