「はい、どうぞ」
とびっきりの爽やかな笑顔で、司が俺に手渡したのは小さな紙袋。ロゴを見れば有名洋菓子店のものだとすぐにわかった。
冷たい風が夜を満たし、満たさないのは目を凝らせば空に輝く月だけだ。
ああ寒い。俺はなるべく面倒臭そうに口を開いた。
「なんだよ、これ。」
「え?チョコレートだけど」
カッコつけたつもりだったのか、司は間抜けな声を出して答えた。俺は紙袋を司の目線の高さにまで持ち上げる。
「んなの、見たら判る。俺はこんなものを貰うようなことしたか?」
“貰うようなこと”に司は反応したんだと思う。アホは目を見開くと同時に声を出した。
「な、ひど!今日が何の日か忘れてるわけ?」
「…は?」
俺は首をかしげた。何の日かは知らない。
「もう知らない!」
司は大声で言うと、拗ねて自転車置場に向かってしまった。
俺は静かにマフラーを巻き直す。
「…ばーか。先越すなっての」
鞄の奥で渡しそびれた包みを取り出してひとりで笑った。
END
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