02



 弟のハテナに無視をして、言葉を濁すと、上から女性特有の高いの声が響いてきた。まるで犬を呼ぶように名前を連呼している。この場所には俺とコイツしかいないから、上から階段をもうスピードで下りてくる生徒はコイツを捜しているのだろうか。

「…お前捜されてる?」
「みたいですね」

 やっぱり。


「みたいって、他人事か?」

「ははは」

 いや、笑い事じゃないだろ。そう口にする前に違う声色が二人の間を過ぎった。

「シン!」

 女子生徒は暗めの茶髪の髪をお団子の様にまとめ、口を膨らまして唇を立てた。あからさまな顔だな。

「慎っ、ここにいた!」
「…なに?」

 女子生徒の声が大きいからか弟は嫌そうに顔を歪めて、適当に相槌を打つ。

 あ、コイツそんな顔もするのか。意外。


「何って今から部会がっ…て、あああーー!」
「え」

 突然現れた女子生徒(たぶん、年下)は俺を見るなり叫んだ。なんだ?

「あ、あの写真の先輩ですか!?」



「……は?…写真?」

 急に話を振られて驚いてしまった。あの写真ってなんだ。ていうか、お前誰だよ。お団子は「ホンモノだ」「ホンモノだ」と繰り返し、自身の鞄を探りだした。なんだ?雑誌?


 すると、ページを開いて俺に見せた。

「こ、これです。この写真!」

「…なにこれ」


 優秀賞 沢田慎とかかれた横には一枚の写真が印刷されていた。それはどっからどうみても、俺だった。なんだ、これは。


「すみません。俺の写真が勝手に投稿されてしまったみたいで…」

 勝手に、なんてお前。それにしてもこの写真。俺が目を丸くしていたからか、女子生徒はペラペラと説明を始めた。

「えっ本当に知らなかったんですか?慎、学校からも期待されるぐらいの腕なんですよ!」

「へえ、」
 写真に写るのは、顔を緩ませて窓の外を見る俺。弟には俺がこんな風に写っているのだろうか。自慢じゃないが、人に比べて笑顔が多いとは言えないのに。


「ていうか、やっぱ、すげーよ」
「…ありがとうございます」


 先程の会話の続きと弟は察したらしく素直に礼を口にした。

 それにしても、俺ってこんな顔してるのか?それとも、これが俺の本質?まさか。

「見てた時ですよ、ソレ」
「?」

 弟はコソリと耳打ちした。

「司を」

「なっ!」

 くすりと笑うと、俺の耳元から離れて小さく音がした。

「赤くなってますよ」
「うるさい!」
「え?慎、なんて言ったの?」
 弟は女子生徒の声を無視して、小さくお辞儀をした。

「では、先輩。失礼します」
「し、失礼しまーす。ちょ、ちょっと慎!」


 お団子女も繰り返すと、二人はそそくさ俺を置いて行ってしまった。そんな笑顔するな。

 独り残された俺は、とりあえず窓越しの空を見上げて、紅く染まった頬を冷やした。


 その時ポケットで震えるアホからの着信に気付くことはなかった。

END


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