07



 コイツの目、真剣だ。首の痕の話じゃない。俺はソファーに座り直した。名前を呼ぶ。

「つかさ」

「進学も就職もしなくていいから、俺の傍に居てよ。俺が頑張るから」
「な、」

 勝手なこと言うなと言う前に両肩を掴まれた。痛い。でもそれ以上に司の真剣な眼差しが痛い。なんだよ。



「どこにも行かないでよ、椿」

 司はそう言うと俺を強く抱きしめた。

「つか、」


 なんてこと言うんだコイツは。でも、コイツもバカなりに考えてたんだな。どうして気付かなかったんだろうか。胸を締め付けられる様な感覚に。

 俺は男だから、お前に守られる立場になるわけにはいかないけれど。小さい声で「行かないで」なんて呟くな、馬鹿。甘やかしたくなるだろ。惚れた弱みはでかいな。


 俺は溜め息を吐いて、ポンポンと司の背中を優しく叩いた。

「馬鹿か、お前は。」


 司が何か言おうとする前に言葉を繋げた。

「俺は傍にいる。だから応援しろよ、俺の進路。」
「…せんぱい?」


 司が不安げな瞳のまま俺を見る。そんな目、してんじゃねーよ。「わっ、せっ!」

 俺は鼻でクスンと笑ってから、司の柔らかい髪をぐしゃぐしゃと強く撫でた。犬みたいだ。


「そんなマヌケ面してるからだ、アホ。兄貴が長期出張が急に決まってさー」
「え、あ、はい?」







 うわ、アホっぽい顔。俺は力が抜けてへにゃりと笑う。


「だから、一緒に住むか?」



 出張なのは、本当。でも一緒に住むなんて考えてはいなかった。それでも口に出たのだから住んでもいいと思ってるのだろう。

 司を見つめ、手をぎゅっと握られる。ああ、犬みたいな顔。

「え、あ。はい!お願いします!」

 その答えにふふと笑うと、ぎゅっと抱きしめられた。それを優しく抱きしめ返し、筋肉質の硬い身体の感覚を確かめる。

 男同士という事実は変わらないけれど、離れたくないのは同じだから。結局そういうことかもしれない。




 次の日、俺は近場の大学名を書いてあの紙とおさらばした。
 さようなら。

END


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