05




「…意外と面白いかも」


 思わず口に出した感想が、予想以上に部屋に響いて、ビクリと肩をならした。気が付けば、誰も居なくなっていた。さっき目が合った女の子もいない。腕時計で時間を確認し、プレートに書かれた閉室時間と見比べた。図書室が閉まる時刻まであと30分か、そろそろ起こした方がいいよな。



 …あれ、どうやって?

 今までこういうときは叫んで起こした事しかない。誰も居ないとはいえ、私語厳禁のここで騒ぐ訳にはいかないよな。

 俺はなるべく小さな声でアホの名前を呼ぶ。

「つ、かさ」

(!…うわ…っ)

 思っていたより自分が優しい声を出してて恥ずかしい。俺は赤くなった頬を押さえた。ちらりと司を見る。

 ていうか、起きろよ。


「…おーい、司。起きろ」

 出来るだけ小さな声を出し、柔らかい頬を指で突っつく。司の長い睫毛は動くことなく、規則正しい呼吸音が響く。

「起きろよ…」

 俺はゆっくり、そして何回も誰も居ないことを確認した。大丈夫。この場所は本棚の死角となって扉からは見えない。


「…お、お前が、起きないからだからな」


 自分に言い訳の言葉を吐くと、ゆっくり司の顔に近づき、お互いの唇を合わせた。チュッ。


 しばらくして口を離すと、ピクリと司の眉が動いた。小さなうめき声が聞こえる。ゴクリと息を飲んで、ゆっくり息を吸う。



「…せ、んぱい?」

「おはよう。お前寝過ぎ」


 俺をようやく認識した司は顔を上げると目を丸くした。俺は何も無かったかのように振る舞う。

「な、なんでここに?」
「さて、なんででしょう」

 俺がそう言うと安堵の表情を浮かべたが、すぐにむくれた顔付きになった。意地張ってんじゃねーよ、アホ。あ、それは俺も同じか。


「帰るぞ」

「え?」
「なんだよ、俺と帰るのはもう嫌か?」

 そんなに驚くなよ。傷つくだろ?

「違うけど…」
「なら、行くぞ」


「わ、」

 これ以上長居したら良くないことまでしてしまいそうで、思いを掻き消す様に司の手を引いて図書室から抜け出した。




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