「…意外と面白いかも」
思わず口に出した感想が、予想以上に部屋に響いて、ビクリと肩をならした。気が付けば、誰も居なくなっていた。さっき目が合った女の子もいない。腕時計で時間を確認し、プレートに書かれた閉室時間と見比べた。図書室が閉まる時刻まであと30分か、そろそろ起こした方がいいよな。
…あれ、どうやって?
今までこういうときは叫んで起こした事しかない。誰も居ないとはいえ、私語厳禁のここで騒ぐ訳にはいかないよな。
俺はなるべく小さな声でアホの名前を呼ぶ。
「つ、かさ」
(!…うわ…っ)
思っていたより自分が優しい声を出してて恥ずかしい。俺は赤くなった頬を押さえた。ちらりと司を見る。
ていうか、起きろよ。
「…おーい、司。起きろ」
出来るだけ小さな声を出し、柔らかい頬を指で突っつく。司の長い睫毛は動くことなく、規則正しい呼吸音が響く。
「起きろよ…」
俺はゆっくり、そして何回も誰も居ないことを確認した。大丈夫。この場所は本棚の死角となって扉からは見えない。
「…お、お前が、起きないからだからな」
自分に言い訳の言葉を吐くと、ゆっくり司の顔に近づき、お互いの唇を合わせた。チュッ。
しばらくして口を離すと、ピクリと司の眉が動いた。小さなうめき声が聞こえる。ゴクリと息を飲んで、ゆっくり息を吸う。
「…せ、んぱい?」
「おはよう。お前寝過ぎ」
俺をようやく認識した司は顔を上げると目を丸くした。俺は何も無かったかのように振る舞う。
「な、なんでここに?」
「さて、なんででしょう」
俺がそう言うと安堵の表情を浮かべたが、すぐにむくれた顔付きになった。意地張ってんじゃねーよ、アホ。あ、それは俺も同じか。
「帰るぞ」
「え?」
「なんだよ、俺と帰るのはもう嫌か?」
そんなに驚くなよ。傷つくだろ?
「違うけど…」
「なら、行くぞ」
「わ、」
これ以上長居したら良くないことまでしてしまいそうで、思いを掻き消す様に司の手を引いて図書室から抜け出した。
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