これがもう何回目のコールか判らない程、俺は電話を掛け続けていた。相手は勿論、司。でも繋がらない。そんなに俺が嫌か?
駄目だ。落ち込んできた。
「村上先輩?」
「あ、沢田弟」
半ばヤケに学校の階段を下っていたら沢田の弟が現れた。姉貴に良く似て髪はウエーブし、背は俺より高くて眼鏡を掛けている。「やっぱり先輩だ」と言って沢田弟は笑うと、両手に抱えていた大量のプリントを持ち直した。
ああ、癒される。コイツって確か、司と同じクラスだったよな。
「なあ、司知らないか?」
「え?ああ、司ならさっき図書室いましたけど」
「そっか、悪い」
図書室か。なら携帯をマナーモードにしてるかもしれない。だとすれば、気付かないのも理解出来る。一階の図書室に向かおうとまた階段を下り始めようとしたとき、沢田弟に声をかけられた。
「ケンカでもしたんですか?」
「え?」
「いや、あの。アイツ、最近へこんでますから」
そう言って沢田弟は優しく苦笑した。何故かコイツは俺達のこと知ってるんだよな。まあ、構わないけど。
それにしても司がへこんでるって本当かよ。
「へこむのか?司が」
「はい、気持ち悪いぐらいに」
「それは言い過ぎだろ」
「そうでもないですよ」
すると沢田弟はプリントを下へ置き、鞄から絆創膏を取り出した。
「良かったら、どうぞ」
「え?」
「目立ちますよ、その…」
「!」
首筋を指差す。何の事だか咄嗟に悟った俺は、自覚するぐらい顔を赤くして絆創膏を受け取った。
「ありがとう」
あの馬鹿ども。覚えとけよ。それに姉の方も弟の良さを真似て欲しいぐらいだ。
「いえ、いつも姉の事でお世話になってるので」
「ばーか。お前が気にすることじゃねぇよ」
「…ありがとうございます」
「お前の姉貴、悪い奴じゃないのにな」
「そうですかね」
「そうだよ」
俺がそう言うと、弟は花が飛ぶ程の笑顔を見せた。ああ、俺もこんな弟が欲しい。
そして、沢田弟の指摘通りの場所をそれで隠すと、礼を言って図書室に向かった。
「おい、アホ。」
寝てる。俺は、図書室の一番奥にある席でスヤスヤ眠る司を見つけ、殴りたい衝動を抑えていた。
こんなところで寝てたら風邪引くだろ。
俺は黙ってアホの隣まで近付くと、静かに隣に座った。それにしても良く寝てる。英語のレポートだろうか。教科書の他に辞典や英語で書かれた新聞が俺達以外誰も居ないテーブルに広げられていた。
「…」
視線を外せば、図書委員らしき女子と目が合った。俺は何気ない顔をして、本棚から適当な小説をとり、司の隣に座り直した。
「(それにしても、良く寝てるな…)」
そう思いながら探し回った時に出た汗を静かに拭った。
「…起きるまで待つか。」
さして面白くもなさそうな本をペラリとめくるが起きる気配はない。俺は仕方なくこの本の世界に浸ることにした。