03



「私達がどれだけ心配してると思ってるわけ?」
「沢田?」

 沢田は低い声のままそう言うと何かを思い付いた顔をして、机を乗り出し俺に抱き着いた。
 は?意味わかんないんですけど!

「何すんだよ離せよ!」
「嫌。ムラの首筋に跡付けてやる。」

 跡?コイツ何言ってんだよ。

「は?ばか言うな」

「私、本気だもん」
「んじゃ俺も」

「なんでだよ!」

 すると首筋に二つの頭が近づいてくる。気が付けば二人掛かりで押さえつけられた身体は、逃げたくても逃げられない。や、やめろ!


「バカヤメロ!いっ!」


 鈍い痛みと共に、首筋に二つ見たくもない跡が出来たみたいだった。


 二人は満足げに手を腰に当て笑う。

「これでまた喧嘩でもしろー」
「そーだそーだ」

「…これはタチ悪いだろ。つーか和樹までする必要なくね?」

「ん?一つより二つの方がいいじゃん」

 爽やかに言うことじゃない。やっぱり馬鹿だ、コイツ。

「バカじゃねーの」
「落ち込んでたムラの方がバカだしー」

 そう言って沢田はケラケラ笑った。あ、笑ってる。良かった。

「…まじうざい」

「へへー!なんて、そんな言うほど跡になってないよ?」

「そうなのか?」
「うん。だからはやく仲直りして元気になってねムラ」

 沢田はそう言って笑った。それからポケットに手を突っ込むと小さな紙を二つ取り出した。

「はい、これ。私が働いてるカフェの割引券。つかさちゃんと来てね」
「沢田、俺には?」

 和樹が遠慮なく手を差し出す。沢田は眉をわざとらしく歪めた。


「えーしょーがないなー」
「なんだよそれ!」

 沢田は俺に近寄ると「飲み物ぐらいサービスするからね」と小さな声で耳打ちした。

「あと悩んでるなら相談ぐらいしなよ」
「…心配してくれて、ありがと」

「ふふ、どう致しまして」

 俺は頭を下げると、二人は優しく微笑んだ。


「俺行くわ。また明日」
「ばいばーい」

 俺は友人にまた礼を言うと、携帯片手に急いで教室を後にした。




「あれはバレるでしょ」
「まーあんなはっきり付いてたらな」

「私しーらない」

 なんて、俺が居なくなったあとに交わされた二人の会話を知ることは無かった。


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