02



 さっきの二人は俺の数少ない友達だ。

 和樹はサッカー部のエースで信頼が厚く、沢田は北高の魔性の女として名を馳せている。

 沢田は悪い噂しか聞かないが、本当のコイツは学校の花壇の水やりを毎日欠かさずしてしまうような可愛い人間なのに、その容姿と言動から誤解ばかり受けている。そんな二人とは高校からの付き合いだが、3年になった今でもいつも一緒にいる。

 二人とも心配してるのだろうか。暑いのにわざわざ俺に近付いてくるなんて。

 コイツら知ってんのかな。俺がゲイだって。知らないよな。俺は何も話さないし。
 それに沢田に至っては“つかさちゃん”て呼ぶってことは付き合ってる相手を女だと思ってそうだし。

 なのにこんなに心配してくれてるんだよな。

 馬鹿だよなー、俺。



 担任はしゃがれ声で頻りに進路を連呼し、調査紙の重要性を説いた。俺はそれが理解出来ず、机に肘を付きながら違うことを考えていた。


 あの日も今日みたいにいつもと変わらない午後だった。俺も浅はかだったかもしれない。自分の部屋で、進路について笑いながらベラベラ喋っていた。
「だから、聞きたくないってば!」

 ハッキリした声で司はそう言った。

 急に大きな声を出した司に腹を立てて言い返したのが最後。司は溜まっていたものを吐き出すかのように思いの丈を喋った。

「進路進路って、結局は先輩が学校から居なくなるってことでしょ?俺の気持ちも考えてよ!」

 そして言い終わると黙ったまま、部屋から出て行った。



 それにしても、司があんなに年齢を気にしてるなんて思わなかった。たかが一年。けど、アイツにとってはされど一年だったんだな。





「ムラー?終わったよ、帰ろ?」

 いつの間にかホームルームは終わっていたらしく、不思議そうに沢田は俺の顔を覗き込んだ。


「あ、悪い。俺、寄るとこあるから」

 司に会いに行こう。会わなきゃ始まらない。もし、修復不可能ならその時はコイツらに慰めてもらうとしよう。

 俺はそう悟ると、立ち上がってリュックを担いだ。


「えー今日は私と遊ぼうよー!」
「んな暇ねーよ」

 俺が笑うと和樹がため息を吐いた。
「ムラ、」

 なんだよ。そんな優しい声出すな。


「本当に、大丈夫か?」

「ああ。お前らの馬鹿面見てたらなんかどうでも良くなってきた」
「ひっで!なんだよ、それ」

 俺がそう笑うとつられて和樹も笑った。すると、沢田の低い声がした。



「なにそれ。」
「沢田?」


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