I can't help.



「どうしたの?カナ最近元気ないよ。」
「んーちょっとね」

 こざっぱりした部屋で松田加菜子は空っぽのグラスの中の氷を見つめていた。ここは大学の友人の家で、その友人の恵は新しいワインを注いでいた。


「あ、噂のアタック中の彼はどーなったの?」

 真っ赤な液体がグラスを満たす。



「ゲイだった」
「は?」

 カランと氷が動き、驚いた恵は加菜子に近付いた。テーブルにあるチーズとピスタチオが盛られた皿が豪華に見え、すぐそばに恵の顔が見えた。

「…メグ近いよ」
「そんなのいいから!どういうこと?その人ってバイト先によく来てた人だよね?送ってもらってるとか」

「改めてフラれたの。」

「え?よくわかんない」


「梅酒ちょうだい。」

 そう言って白い手を伸ばした。加菜子はワインが苦手だった。自分の子供舌ではこの飲み物は苦いと思うからだ。


 獲物までもう少しのところでメグがパックを取り上げた。メグ?眉間にしわを寄せた彼女と目が合う。

「ちゃんと話す?」
「……とことん付き合ってくれる?」
「もちろん!」 恵はニヤリと笑ってパックの梅酒を差し出す。

「はい、どうぞ」
「ありがと」
 コップを両手で支え、ピンクに塗った口が開く。


「この前、改めて話をしたの。」
「うん」
「そしたら貴女と付き合えないのはゲイだからだって言われた」

「なにそれ」

 なんだと聞かれても、私だってわからない。村上くんと居た日々は夢みたいだった。手の届かない夢物語。だとしたら彼はお伽話の王子様だったかもしれない。笑顔が素敵な王子様。都会的な雰囲気でオシャレな男の子だったし。
 地方から上京した私には持ち合わせないオーラだった。

 だからこそ宣言されたのは衝撃だった。


「なんだかショックで」

「えーっと、その同性愛者ってことが?」
「じゃなくてね、」

「?」

「あんなはっきり断られたのは初めて」
 途端に彼を思い出した。余分な肉の無い頬が好きだった。その顔を歪ませ謝る彼の姿が焼き付いて離れない。


「あーカナはモテるからね」
「……だからなのかな」
「否定ぐらいしなよ」

「いや、そっちじゃなくて」

 メグはクエスチョンマークを浮かべて皿のチーズのひとかけらを口に含んだ。


 私は梅酒を少しだけ口に含み、ゴクンと流し込んだ。

 ため息をつく。

「私は優しくしてくれる人を好きになりやすいのよ」

「うん?」
「優しいってことは好意を抱いてるってことだと思ってた。異性は特に。」
「で?」
「でも彼は違った。」

 今まで付き合ってきた男性とは確実に違う人だった。
 優しさに下心が無かった。違う気持ちがあったのかもしれないけれど。

「うん」
「そこに惹かれてたのかも」


「…ごめん。わかんない」

「ううん、いいの。私も自分で言っててよくわからないぐらいだし、でも」
「でも?」

「好きだった。ゲイでも良いと思えた。」
「重症ね」

 病なのだろうか、この気持ちは。思った以上の嫌悪感は抱かなかった。寧ろ、だからかと納得した気持ちの方が大きくて。
 だから、彼が私のアピールに振り向かなかったのもよく理解出来た。

 そりゃそうだ。私のアピールなんかに振り向くわけないよね。女の私なんか。


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