[03]



 でもひとつ気になったことがある。

 松田さんと先輩の関係だ。同い年でもないなら中学時代の先輩後輩の仲とか?でもあまり親しくないみたいだし。ならバイトとか?バイト先は学校の近くだからおかしいよな。

 気になる。このふたりはいったいなに?


「松田さんってー先輩とはどういう関係なんスか?」
「え?」

 軽く聞いたつもりだったのになにか言い方がまずかったんだろうか、不思議そうに見られてしまった。

 俺は焦って咄嗟に言い繕った。


「あ、あーあの人あんまりそういう事言わない人だから」

「そうなんですか」

「えっと、こんな可愛い人とのどー言う関係なのか後輩は気になるんですよー」



 すると虚しい笑い声が響いた。

「フラれたんです。」
「は?」

「先月。告白して、フラれました。あっさりです」
「あ、えと、すいません」

 フラれた?告白?先輩は一言もそんなこと口にしなかった。なんだよ。

 彼女にかける言葉が見付からなかった。「やっぱり」なんて言ってもしょうがないからだ。


「あ!いいんです、吹っ切れましたから。多分」

 俺が俯いていたせいか彼女は勘違いしたらしい。急にペラペラと饒舌になった。「あの角のマンションです」と笑ってみせた。自転車のカラカラと乾いた音が対照的で笑える。

 笑えないけど。



「それに勝ち目なさそうですもん」
「え?」
「今日だって、結構アピールしたんですけどね」

 それから「村上くんて鈍感だよね」と続けた。その言葉に胸が痛んだ。

 なんだよ、先輩のこと何も知らないくせに。


 女は狡い。堂々と好きなんだを宣伝出来る。俺は何気ない顔で隣を死守することがやっとなのに。

 同じ人が好きなのにスタートからフェアじゃない。

 ズルイ。

「あ、あの白いマンショ、」

「…俺なんです」
「え?」



「俺の…俺の姉貴が、先輩の彼女。だから、無理ですよ。」

 え?

「え。あ、そっそうなんですか!ごめんなさい、私っその」

 何を言っているんだ俺は。

「あ、松田さ」

「ありがとうございました、おっおやすみなさいっ!」

「まっ」



 真っ青な女性はお礼と謝罪を一気に吐き出すと、逃げる様な走り方で去っていった。


 暗く澱んだ空。グレーの電柱が悲しい。


さいていだ おれ。


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