酔っ払ってフワフワした先輩をそっと抱きかかえた。相変わらず軽い。さて、向こうのベッドまで連れて行こう。
「ほら先輩、松田さんにバイバイは?」
「松田しゃんバイバイ」
「あ、あは」
松田さんは引き攣った笑みを見せ手を振った。それを見た俺は黙って先輩を部屋まで運んだ。
バタン。
扉を閉めてしまえば、あの女の子はこっちが何をしてるのかわからない。
シンプルな部屋の窓側にあるベッド。そのベッドが静かに二人分沈んだ。
「ちゅかさ?」
「んー?」
「なんか怒ってゆの?俺のせいかな…?」
「え、」
開いた口が塞がらなかった。バレてた?いや、そんなはずはない。いつもバレやしないから。なら酒を飲んだから?
「ちゅかさ?」
「…。(酔っ払ってる方がそういう感覚鋭いのかも)」
天使は、やはり俺だけの天使だ。
「…つか」
「ふふ。怒ってないよ、いい子で待っててね」
「ん」
そっとおでこにキスをすると気持ち良さそうに目を閉じた。
「さあ松田さん行きますか」
携帯と家の鍵とを持って促す。松田さんは花柄のパーカーを羽織った。
ガチャガチャと念のため鍵を締めた。時計は12時を回っていた。
こんな時間に女の子ひとりで帰すほど嫌な奴にはなってない。本当は嫌だけど。
「今日はお邪魔しました」
「いえいえ、楽しかったですよ、松田さんお酒強いんですね」
「いえ、それ程でも。あ、村上くん大丈夫でしたか?」
「あははーすいません。酔うと末っ子パワーが炸裂するんです。あの人」
「そうなんですかー」
ふふと女性は笑った。昔は女にしか興味無かったのに今は嫉妬の対象でしかない。
「末っ子パワーて可愛いですね」
無垢な笑顔という針でチクチクと心臓を刺されている感覚に俺の心が麻痺してしまいそうだ。さっさと送ってしまおう。
そう思い、目の前の先輩の自転車の鍵を開けた。