[04]



「改めて高橋司です。気軽に“つかさくん”て呼んで下さいね」
「あは、私、松田加菜子です。今日は突然すいません」

 白いテーブルに白いビニール袋。松田さんの小花柄のパーカーが白に良く合う。時間が時間なので俺はそそくさと台所に入った。

「いやいや、先輩が誘ったんでしょ?あの人そーゆいとこあるから」

「アホーはやく手伝えー」
「あ、松田さんはここに座ってて下さいね」






「先輩肉は?」
「あー冷蔵庫。兄貴が買って入れてるはず」

 腕を捲くって鍋に水を張る。台所から松田さんをチラリと見るついでにテーブルを見ると、カセットコンロと3人分の器と胡麻ダレとポン酒が置かれている。
 あ、あと酒も。

「あっこれね。先輩のお兄さん相変わらず優しいよねー。出張だからって弟の為にわざわざ買い込んだりしないでしょ」

 コイツにはまだ会わせた事のない兄、誠二の事を考えながら重たくなった鍋をそっと持ち上げた。…つーか、なんで土鍋しかねぇーんだよ、この家は。

「無駄遣いされたくねーだけだよ」
「えー俺兄貴二人いるけどどっちもそんなことしないよ?」
「マジかよ」
「え、そんな驚くこと?」
「違う違う。お前って一人っ子ぽいからさ」
「そう?」

 俺にとって新事実だった。



「あの私も手伝いますっ」

 コンロの上に鍋を置いた時に松田さんと目が合った。あ、そうか。今日は3人か。そう思ったせいで喋り出すタイミングがズレた。
 アホがヘラヘラと笑う。

「いいえ。お客さんは座ってて下さーい。ねーお母さん」
「誰がお母さんだ。」

「エプロンも超似合うー」
 何気なく付けた紺のエプロンを見下ろして馬鹿馬鹿しくなった。だからアホの顔をつねってやった。
「だまれ」
「痛い痛い痛いっ」


「えっえと、似合ってますよ、村上くん」
「まじすか。てか松田さんタメ語でいいですよ。俺、年下だし」

「え、うん。ありがとう」

 はにかむ俺と松田さん。その時見せた司の表情に俺は気付くことはなかった。




 もし、あの時、気がつけば。そうだったら誰も傷つかなかったんだろうか。


 傷つけたくないから何も言わなかったのに。なんて所詮自分勝手。自分の胸を痛めるのが怖かっただけなんだ。

 俺はまだ周りの見れないガキだった。




後編へ(司目線)


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