漆黒の路地に小さな電灯が等間隔に光っていた。
ペダルを踏み込む度に生温い風が俺にぶつかる。後ろに女性を乗せたのは初めてだ。彼女は遠慮してか黙り込んでいた。
良かった。その方が楽だ。
「とばしますね」
そう言いながらペダルを踏む力を強めた。
「到着。」
「すすいません、私、重かったですよね!」
「へ?なに言ってんすか、松田さん軽かったですよ」
俺が住むマンションは茶色い柵で囲われている。そんなカントリー風な外見とは裏腹に部屋は白で統一させたシンプルなマンションだ。
自転車を止め、鍵を掛けた。
「今日豚しゃぶなんですよ、せっかくなんでどうぞ」
「あの、いいんですか?」
そんな彼女の仕種は上目がちに伺う様だった。
なにがだろうか?
「2人より3人の方が盛り上がるし、女性いた方が花がありますしね」
「えっ、花なんて」
そう言うと松田さんは花の様な笑顔を見せた。
「…(俺がゲイじゃなければ惚れてるんだろうなー)」
「…村上くん?えと、私の顔に何かついてますか?」
「え?あ、すいません。こっちです」
片隅のそんな思いを消しながら俺はそっと微笑んだ。
カツンカツン、階段を上ると玄関で小さくなっているアイツを見つけた。座り込んだ両サイドにビニール袋が二つ。
また酒買い込んだのか、コイツ。
「こらアホ。そこどけ」
「あ。待たせたんだからごめんぐらい言いなよー。どSだよ、先輩。」
「うっせ」
「もー。あれ、この人は?」
「こ、こんばんわ」
松田さんは小動物の様に微笑み、アホは立ち上がり松田さんに会釈した。
深緑の綿パンにモノクロの東京タワーが印刷されたロングTシャツ一枚。真深く黒のキャプを被っていた。
ラフな格好なのに、見とれるほどカッコイイとか思えたから腹が立つ。
「この人松田さん。コイツ俺の後輩の高橋です。とりあえず、どうぞ中へ」
「…あ、はいお邪魔します」
「おじゃましまーす!」
ガタンガタンと不快な音を鳴らし、男二人と女一人が狭いマンションに入った。