say me.前編



 時に人は全く関係のない人と交差する。偶然か必然か。それが出会いである。
 それでも俺があの日あの場所に行かなければ違ってたかな、なんて。まるでカオス理論だ。

「あ、あの」
「はい?」
「お願いがあるんですが…」

「え?」




 何の話だと感じる前に、目の前の栗色のボブヘヤーの女性はどんぐり目いっぱいに涙を浮かべていた。


「え、どうしたんスか」

 ここは夜のコンビニ。もうすぐ10時になろうとしていた。ジャカジャカ。空回りな曲が二人の脇をすり抜け店内に響く。

 女性は静かに涙を拭った。

「す、すいません」
「い、いいえ。あの大丈夫ですか?」

 女性の涙などいきなりの事で驚いたが、か細い声が鼻を啜る音の後に聞こえてきた。

 相変わらず誰も来ない、静かなコンビニエンスストア。

 目の前には数日前に俺が好きだと言った女性。

 そしてその女性は泣いている。…なんなんだ。
「こ、こわくて」
「え?」

「あ、ニュースで、不審者の情報とかしてて、もしよかったらでいいんで、その…お願いします」


 語尾がみるみる小さくなり、女性は俯いた。

 …要するに俺があなたを送って行けと。
 結論を言おうとして止めた。女性はカタカタと手を震わしていたから。

 ていうか、なんで俺?


「あの、俺なんかより家族に迎えに来てもらうとかは?」
「あ…えっと私、実家地方で…一人暮らしで…」

 マジかよ。なら、

「友達は?」
「私女子大で女の子の友達しかいなくて…」

 あー、ぽいけど。てか、年上だったんだ。敬語で告られたから同じか下だと思ってた。

 て、今はそれより、

「夜しかバイト入れないんですか?」
「いえ、そんなわけじゃ…」
「ならなんで夜もバイト入ってるんですか」

 思わず早口でまくし立てた。彼女は顔を赤く染めた。

「それは…」

「いくらか時給が上がるのが理由とか?」
「いいえ!違います」


 無意識に睨むと彼女はさらに顔を真っ赤にさせた。林檎か?




「あ、…あなたが来るから…です。」


「…そうス、か」


 そう言われたら送るしかないだろう。


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