「急に会いたくなったんだよ、悪かったな」
「!」
そう言った途端、向こうの手が止まった。
日も暮れようとしてるのに急にコイツの顔が見たくて仕方なくて、俺は外へ飛び出した。
て言うか、気が付いたら携帯さえ持たずに暗くなった街を歩いていた。途中、雨でへばり付いた髪はうっとうしくて、こんな姿見られたくなくて帰ろうかとも思った。でも帰らなかった。
帰れなかった。会いたかったから。
結局、体を濡らす雨だってどうでも良かったんだ。
うざいよな。キモいよな、年上のくせに、ぐだぐだと。上手く甘えられなくて、今もこうして膝を抱えてる俺なんて。
「ふーん。それでびしょ濡れになりながら、会いにきちゃったんだ」
「悪いかよ」
「もう、本当に」
「なんだよ、?」
「うざいだろ?」と聞く前に司はタオルを頭から剥がすと、濡れたままの俺を抱きしめた。
え?
「可愛いー!それに、すげー嬉しいんですけど。それなら早く言いなよーもう」
俺の予想と反して嬉しそうな声が聞こえる。薄っぺらいはずの司の胸板。温かくて、当たり前だけど司の匂いがする。俺はそれだけでドキリと胸がときめいた。
「…うざいだろ?」
「どこが?嬉しいよ、俺」
そっと見つめると緩んだ顔と目が合い、「可愛い」「可愛い」と連呼されてたらもうどうでも良くなった。
なんだ、アホらし。
「バカじゃねーの」
「もう。素直になりなよ」
「うるせ、黙れ」
ニタニタした顔のアホは、俺の腰をスルリと撫でた。
「つーくん愛してる」
「つーくん言うな」
「椿て呼ぶと怒るくせに」
「うざい」
俺の悪態なんかお構いなしにちゅっと頬にキスされた。
「やべ。会いたいなんて、本気で嬉しい」
「つ、かさ?」
「椿、好きだよ」
「ゃっ、ちょ耳、やめっ」
囁きながら左耳をベロリと舐められた。背筋がゾクゾクと電流が走る。
あ、やばい勃つかも。
アホは気をよくしたのかケラケラ笑いながら水音をたてて耳を熱心に舐めた。コイツめ。俺が耳弱いの知ってるくせに。
「おい、やめろって!」
「やめなーい」
「バッ!…ひっ司、」
「あっ今の顔、可愛い」
「ばっか、舐めんな…」
「今日は逃がさないから」
微笑みながら「覚悟しといてね」と言うと狼は真っ赤な舌をペロッと出すと、俺を柔らかいシーツの上に押し倒した。
いつもと違い、余裕の無いのか原始的な口付けをする。噛み付かれた様だ。俺は食べられてしまうのか?
どうであれ、今夜は長い夜になりそうだ。
裂く様な雨音は、鼓動の音が掻き消した。
「あ。今日は最後までしていいの?」
甘いベッド。二人はコーヒーとミルクの様に混ざり合う。
「ん…っ良いから…ハァ、んなとこ、でやめ…んなっ!」
「了解。メロメロにしてあげる。」
「ばっか、…ん」
バカが。もうテメーにメロメロなんだよ。
「好きだよ」
END
It is an inside of your arm when noticing.(気付いたら貴方の腕の中)