轟々と大粒の雨が降り注いでいる。
空は暗く、窓にはビチャビチャと冷たい雨が跳ねていた。
「はい、先輩。カフェオレ」
「おー」
俺は窓から視線を外さず言った。俺のそんな態度でも奴はそっと微笑みインスタントのカフェオレを差し出す。この部屋はコイツの匂いでいっぱいだった。
当たり前だ、コイツん家だし。
「(…模様みてえだな)」
掻き混ぜたばかりなのか、コップの中身はくるくると甘く回転している。その流れを止める様に、そっと口に含んだ。甘い。むしろ甘すぎ。だが、今の冷たくなった身体には丁度よく感じたので黙っておいた。
フウ、小さく息を吐いた。
「まだここらへん濡れてる。」
「うるせー」
「髪、乾かしたら?いっそシャワー浴びる?」
「…浴びない」
「あらそう、残念。じゃ、ちょっと待っててね」
さして残念でもなさそうに濡れた頭を撫でると、部屋から出ていった。その足取りは軽く、閉められた扉は重い。
俺は一人、ゆっくり息を吐きながらコップを置くと、何気なく窓から視線をそらした。辺りを見回す。白いカーテンに青いシーツ。爽やかなその部屋にはギターベースのインストが流れている。
相変わらずオシャレ過ぎるだろ、バカが。
「ただいま。はいタオル」
「…いらね。乾かすのダルい」
「もーそんなだからよく風邪引くんだって」
そう言って俺の髪に触れた。「乾かしてあげるね」と声が聞こえたあと、両手にタオルを持つとくしゃくしゃと優しく乾かし始めた。温かい手。触れる度、胸が痛い。
馬鹿か俺は。
「風邪引いたらテメエのせいだからな」
「ひっど。傘持って来ない先輩が悪いんでしょ?びしょ濡れで玄関に立たれてびっくりした俺の気持ち察してよ。」
「…知らね」
俯き、膝を抱える。真っ白いタオルは少しずつ俺の余分な水分を吸い込んでいた。
優しい手をしたまま、タオル越しに髪を撫でる。
「なんでまたこんな天気不安定な時に来たの?言ってくれたら迎えに行ったよ?」
「……(それは、)」
「せーんぱい?」
小さな子に尋ねるような優しい声。見上げたりしないが、優しい顔してるんだろうな。