‘Time is solved’ It was good if it really solved it.



「いらっしゃいませー」

 流行りの曲が流れる店内。ここは駅前のコンビニ。バイト帰りにはいつもここに寄って飲み物を買い、家に帰る。それがいつもの習慣で。

「(…あ、あの人)」
 モップで掃除をしているのは栗色のボブが幼い印象を与えるこのコンビニの女性店員だ。その人は俺に向かって「こんばんは」と小さな声で言うとカウンターの奥に潜っていった。


 どうやらこの女性は俺が好きならしい。

 俺が、自意識過剰な訳でも被害妄想が強いわけでもない。実はつい先日、あの女性に誰もいない店内で人生初めての愛の告白を受けてしまった。(いや、アイツからも告白されたが、男だからノーカン扱いだ。)驚きながらもその告白を丁重にお断りした俺は、相変わらずこの店に通っている。

 いや、それが非常識なのはわかる。でも最初に言ったけど、このコンビニ通うの日課だし、今更変えられねーだろ。そう思いながら欲しいものをカゴに入れると、さくさくレジに向かった。


「…好きなんですか?」
「え?」

「コーラ。よく買って行かれますよね」
「あ、そうスか?」

 そういやよく買うかも。カウンター越しの女性は顔を赤く染め「そうですよ」と微笑んだ。
 それから小さな声で「よく見てるので」と続けた。
 えーっと。
 
 男なら普通こんな可愛い女性にそんなことを言われたらなにかしら感情を抱くのだろうが、俺は何も思えない。

 俺は普通が欠如している同性愛者だ。ああ、なんだか申し訳ないよな。


 そもそもどうしてこの人は俺が好きだなどと言ったのだろうか。



 ひょろひょろした背中に色素が薄く細い髪。母親似の垂れ目。不格好に伸びた手足。俺の何がいいんだ?

 彼女の理由がどうであれ俺は男しか愛せないから一緒か。

 自分の性癖にそう判ったのはいつからだろうか。女性を見て可愛いとは思うが、恋愛感情は抱けないこの歪んだ脳みそに。

 ピルルルピルルル。

「はい、」
『先輩何してるの?』
「コンビニ」
『黒のリュック背負って?』
「…ああ」


 アホからの電話だった。なんだよ、コイツ。レジカウンターから少し控えめに「725円です」と声が聞こえた。気を遣って小さい声にしてくれたのだろう。電話を挟んで財布を取り出し、小銭を出した。3、4、5円っと。お、ぴったしあるじゃん。ラッキー。


『ねー先輩。朝から思ってたけど、後ろ跳ねてるよ。あ。ちがうちがう右』
「…ばかじゃねーの」
 髪を直しながら、キョロキョロ周りを見ると、ガラスのドアの外でニヤつくアイツの姿を見つけた。笑顔で手なんか振るな。今がバイト帰りだからか制服だ。白のシャツにグレーのスラックス。そして1万4000円もする青色のショルダーバッグを持ってヘラヘラ笑っていた。


『気づくのおっそ』
「るせーな、あ。ども」

「ありがとうございましたー」

 そう真っ直ぐ微笑む彼女に後ろめたさを感じつつ俺は、背を向けアイツのもとにかけだした。




END
『‘Time is solved’ It was good if it really solved it.』=(イコール)「時間が解決してくれる」本当に解決してくれるならよかったよ。


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