でも、男同士だからその苦しみは理解してるつもりなのに。どうしてそんなに一人で苦しむの?
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」
「先輩、そもそも話がおかしな方向に向いてない?待ってよ。俺がどれだけ先輩を好きなのか、わかってないの?」
「わかんねーよ!」
先輩はイライラしながら、そう答えた。どうして分からないのだろう。
「なんで?」
「なんでって、だって、」
「だってなに?」
「……好きってあんまり言わないし、」
「う、それはそうかも知れないけど。好きだよ、すげー好き。いつもは恥ずかしくて言えないの!察して下さい」
「む、無理だろ。俺、それに」
「それに?」
「それにお前、どんどんかっこよくなるから。染たのもパーマあてたのも、似合ってるし。俺、不安で」
「…」
これ?俺は無意識で赤茶の髪を触った。確かにこの髪型にしてから色んな人のウケはいいけど。そんなこと思ってたんだ、先輩。
「…なんだよ、馬鹿なのはわかってるよ」
「か わいい。」
口が勝手に動いていた。先輩は俺の手を振り払った。
「は?」
「可愛すぎる。髪とか、服とか、んなの先輩につりあいたいから頑張るんじゃん」
どう頑張っても年齢だけは先輩に勝てないから、せめて見た目だけでも大人になろうと気を使い始めたのがきっかけだった。今は好きでやってるんだけど。きっかけはいつも先輩で。
何回も「可愛い」と言うと俺は震えていたその人を抱きしめた。先輩より2cmだけど背が高くて良かった。この人まじやばい。無茶苦茶可愛いって。
「触るな、よ」
「嫌だ。触るし。そもそもやっと付き合えたのに誰が別れるか。」
「なっ、」
「本当にやっとだったんだよ。ずっと先輩が好きで悩んで告ってやっと付き合えて。男同士でもいいとさえ思えた恋なのにそう簡単に冷めるわけないじゃん」
そう言いながら白い首筋に顔を埋めた。良い匂いがする。
恋なんて素面で初めて言ったよ。俺をここまで変えたのは先輩なんだ、気付いて欲しい。どうしたらいい?そうだ、せめて言葉にしなきゃ。
バサッと顔を上げて叫んだ。
「先輩、俺っ」
「もういい!」
「せっ、」
「わ、わかったから、喋るなっ恥ずかしい!」
伝えたいことがたくさんあったのに、先輩は顔を真っ赤にして手を伸ばし俺の口を塞いだ。
唇にそっと触れる先輩の手は羞恥からか弱々しく震えていた。
「(…ああ、本当にこの人はなんて可愛い人なんだろう)」
それが愛しくて耳まで茹だった先輩に、唇立ててその手の平にキスをした。「わっ」と小さな声をあげて先輩は両手を離した。
「はっ恥ずかしいやつ」
「ねぇ、本当にわかった?」
「わっ、わかった!…それと、あの、ごめ…ん。俺」
「うんいいよ。俺は謝って欲しいわけじゃいから」
「あ、ありがと」
スルリ。先輩の長い両手は真ん前の俺の首に巻かれた。ドキッドキ。あー、嫌だなムラムラしてきてしまった。今は起つなよー。
「不安なんだ」
「うん、大丈夫だよ」
「独りにするな」
「しないよ」
「なぁ、俺の事…、好き?」
「大好き」
俺はこうやって嬉しげにキスを求めるこの人が大好きだ。
END
『I was not so much angry as sad.』=(イコール)『僕は腹が立つと言うよりむしろ悲しかった。』