明くんの憂鬱






「もうアキ、噛むの禁止ー。あー血が出てる。舐めていい?」
「…や、っやだ!」

「うん、はやく治るように舐めとくね」
「ヤメっ」


 ちゅっ、と下唇のみを吸い、器用にペロリと舐められた。少し沁みて痛い。痛いのはどこだろうか。触れている場所すべて?


 そして、甘いお菓子のように転がされる。


「…ん、 ふあっ…ん、」
「かーわいい」

「っかわいく、ない」
「アキは世界一可愛いね」
「だまっれ、んふっ」

「ほんと可愛い。もっとしてあげる」

 血は止まった筈なのに何度も何度もちゅくちゅくと唇を吸われ、ねっとりと舌を絡められる。


 …これぐらいで息があがる自分が嫌だ。



「ん!」


 あ。どうしよう。俺の下半身が反応しかけてる。血液が循環する度に、むくむくと形を形成する下半身の一部。嫌だ、治まれ。こんなの恥ずかしくて死にたい。


 どうか、バレませんように。




 それに、おかしいよ。だってキスだけなのに。 
 たった、それだけなのに。

 それだけなのに、俺は子孫が得られない相手に欲情してるんだ。

 馬鹿だよな。なんて卑しい生物なんだ、俺は。



「好きだよ」

 亮の掠れたハスキーボイスは耳元を優しく囁く。泣きそうになるのに、背筋がゾクゾクする。亮は嘘つきだ。本当はそんなのちっとも思ってないくせに。
 姉貴が好きなくせに。


 俺は雪の弟。
トップモデルYUKIの弟。
俺は雪じゃない。


 そして亮は雪の恋人じゃないか。



 皆が認める理想のカップルの二人は、雑誌にも取り上げられこともある。優しく微笑む亮の隣は雪がお似合いで。

 俺なんか、オーラがあるわけでも、才能があるわけでもなくて、ヒョロヒョロとした貧相な体に、雪に似た顔。二人と並ぶとくすんでいる気すらする。所詮、俺は雪のレプリカだもんな。モデルとして、そんなに人気もないし。


 自分が二人とは大違いで嫌になる。


 なのに、


「ん」
「アキ、エロい顔してる。もしかして感じたの?」
「ふあっ、…うるさい、やっ」

「ここ、こんなになってるよ?」


 くすくす笑いながら亮は俺の気持ちが表れている部分を刺激した。優しく、ねっとりと。だめだ。布越しの感覚がもどかしい。

 ねぇ、どうして俺にこんなことするの。

 雪と同じ顔だから?亮にとっても、俺は雪のレプリカなの?


 亮は雪にもこんなことするの?するなら、どんな風に雪を抱くの?俺と違って優しい?それともしないほど大切?


 どうであれ、俺相手みたいな扱いをしたりしないんだろな。恋人だもんな。

 ねえ、どうして雪だけにしないの?





 心にぐるぐる彷徨うそんな質問を俺は何ひとつ聞けなくて。それは、俺はまだ望みがあるなんて思ってるからなのかな。

 馬鹿だよな。おろか。


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