明くんの災難



「…というか、それしか出来なかったんだけどさ」


 佐々木は「カッコ悪いよな?」と苦笑いを浮かべながら、俺を見た。

 (そんなことない。格好悪くないよ!)


 何も知らない俺は軽はずみな事は言えない。俺は佐々木にかける言葉が口に出せず、もごもごと咀嚼するしかなかった。




 何て言えばいい?どうしたら、元気になるの?


「俺、間違ってたかな?」


 佐々木が優しい声を出すから泣きそうになった。

 何も言えない友達でごめん。


「ごめん。わからないや」

「…だよなっ、はは」

 静かに苦笑する佐々木を見て、俺ってなんて役に立たない奴なんだと思った。こんなとき慰めの言葉はかけれないし、そもそもチカ先輩のこともあまり知らない。彼は謎が多過ぎる。

 あ、そういえば。



「チカ先輩、今日保健室で寝てたね」
「え?」

 俺の一言に佐々木はテーブルに手をつき、「まじで?!」と声をあげた。あれ、知らなかったんだ。意外だ。




「あれ?…なんだか、疲れた顔してた。始めはさ、生徒会が原因かと思ってたんだけど。もしかして、佐々木のことも関係あるのかな?」


「…俺が疲れるてことか?」

 佐々木が低い声でそう言った。


「え!あ、そうじゃないよ。お前のことちゃんと考えてくれてるんじゃないかな、先輩」

「そうかな…」



 ああ、やってしまった。やっぱりだめだ。上手く言えない。静か過ぎる空間に時計の音だけが響く。


 コツ、コツ、コツ、


「難しいね」


 コツ、コツ、コツ、





「あー、あきらー」
「え!おわっ!」

 全てを投げ出す様に両手を上げて俺に倒れ込んだ。向き合う形で「あー」とか「うー」とか佐々木は言ってる。

 大型犬に飛び付かれた時みたいでちょっと笑ってしまった。

 頑張れ、佐々木。


 俺は心のなかで応援しかできないけれど。お前の幸せを願い続けるよ。





「……、スースー」

「…は?」


 もしやと思い、顔を覗き込むと人騒がせなコイツは寝ていた。


 不安で寝てなかったのだろうか。優しい分、なんでも思いつめるタイプだからな。バカのくせに。

 まあ、今日ぐらい寝かせてやるか。






コツ、コツ、コツ


「…佐々木〜」



 やっぱり前言撤回。もう無理。早く起きろ。


 っていうか、重たいし。


 でも無理矢理起こすのも、なんだか気が引ける…



 佐々木が俺に覆いかぶさったこの体勢、疲れてきた。

 何も知らない佐々木の寝息が俺の首筋を優しく刺激する。くすぐったい。












「アキーいるー?」

「へ?」


 声が姿をなすのに時間はかからなかった。俺の思考回路が正常に機能する前に、バッチリ亮と目が合ったからだ。

 文字通り俺は動けなかった。見つめられたからではない。俺の上に佐々木がいたからだ。い、嫌な予感がするんですけど。


 なぜ、亮がここに?とか、手に持っているケーキの箱はなに?とか口にする前に俺の口は勝手に動いていた。


「あ、亮これはね」


 口は言い訳を選んだ。いや、何もしてないけどさ。



「なにしてるのかなアキ」


 亮は扉を静かに閉めると、ぞくりとする程の冷たい笑みを浮かべていた。こわ!

「いや、なんて説明したらいいか、あ、静かに!起きちゃうから」

「なにそれ、そいつが寝てようが起きまいが知らないよ」




 こわいんですけど!


「りょ、だめっ」


 冷たい微笑みを浮かべて近付く亮をみて、悪寒がした。ああ今日はなんて災難続きなんだ。

 か、かみさまー!

END


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