「で、何があったの?」
「な、なにが?」
「何かあったって顔にかいてるよ。それを聞いて欲しかったんだろ?」
佐々木はあからさまに動揺していた。目は泳いでるし、無意識なのか嗚咽を漏らしている。それから黙り込むとスイッチが切れたかのように、先程買った紅茶をコップに注ぎ始めた。
トプトプと波打つ音がした。
「佐々木!」
俺のこと無視するな、と言いかけた時に佐々木は急に正座をして縮こまった。なんだか小さい。
「佐々木?」
「…―した。」
「は?」
上手く聞き取れなくて俺は不快な声を上げた。
「チカ先輩を押し倒した」
二人分の紅茶は赤褐色に光っていた。綺麗。じゃなくて、どういうこと?
「どういうこと、?」
何を聞くのがベストか分からなくて、ぐっと力が入る。そのあと佐々木から発っせられた声は懺悔をするかのように暗い。
「俺、最低だよな」
「…ちゃんと説明しないとわからないよ?」
最低って、悪いことをしたのか?だって二人は付き合ってるんだろ?
「…悪い。あのさ、昨日先輩の家に行って、そしたら二人きりになって、可愛くて綺麗でその、ムラムラしちゃって、」
みるみる小さくなる佐々木。おい万年発情期。男は獣か。あ、この言葉って前にユキが言ってたやつだよな。
…本当だったんだ。俺、今やっと理解したよ。
「それで、拒否されたの?」
だったら悪いことかも。
「…違う。」
「あれ、違うんだ?てっきり俺は…」
「「シたら終わりだよ?」て言われた」
その言葉は静かだった。でもその静けさの意味を理解出来なくて、それを俺が破った。
「それ、どういう意味か聞いても平気?」
佐々木は痛そうに微笑むと、コップを手に取り、一口飲み込んだ。ふう、と息を漏らす。
「今までそうして来たからって。体を繋げたらもっと求めるだろう、でも応えられないからだって」
「さ、」
「それで先輩さ、悲しそうに笑うんだ」
悲しそうに笑うのはお前も同じだよ。そんな苦しそうに笑うなよ。俺は何も言えなくなった。
「…」
「今までってどうゆうこと?て感じだよな。はは、」
胸が裂けそうだった。なんで笑えるんだよ。苦しいならそう言えよ。
俺、お前の親友だろ?
「それで、どうしたの?」
「無我夢中で抱きしめて、帰った。」