「無理してるんだろ?アキちゃんの為に」
「そんなこと、ユキは一言も…!」
「言わないだろ」
バイブ音が響き、巧の手が俊敏に動いた。モニター画面を見て、苦笑する。
「巧?」
「悪い。電話してくる」
「…うん」
ふすまを動かし外へ行ってしまった。誰だろうか。まあ、プライベートを詮索するつもりはないけど。巧もユキの様に友人が少ないと言うか信頼出来る知人が少ない人間だからな。
ピルルル。ピルルル。また同じ電子音。今日何度目だろうか。発信源はユキの携帯電話。
「ユキ出たら?」
「でも…」
「何回も掛かってきてるじゃん。仕事なんでしょ?俺は大丈夫だから」
「ごめんなさい、ちょっと」
「うん。行ってきていいよ、ここにいるから」
「ありがとう。ちょっと待っててね」
なんて言ったはいいけど。今の俺、どっからどうみてもユキだよなー。間違われたらどうしよう。するとザワザワと騒がしい会話が聞こえ始めた。声はユキでも巧でもない。若い男性のようだ。ふすまが開く。え?
「あ、すいませーん間違えまし…え、YUKIちゃん?」
「うわ本物じゃね?!ちょー可愛いー」
…ほら、やっぱり。俺はYUKIじゃないです。そう言おうとして固まった。声出したら男だってばれる?
「ねーYUKIちゃんだよね?」
「ッ!」
乱暴に手を掴まれた。反射的に掴んだ男の方をみると下品な笑顔を浮かべていた。気持ち悪い。
「俺達ファンなんだー一緒に写真撮ろうよ」
「…っ!(近いんですけど!)」
腰を捕まれているので身動きが取れない。ガタイの良い男が二人掛かりで俺を掴んでいる。声が絡まって言葉にならない。怖い。
「ねー写真撮ろー?あ、それよりも俺達と遊んじゃう?」
「いいねー」
「(誰か助けて)」
「…なにをしてる」
ふすまを開いたのは巧で、聞いた事がないような引く声を出していた。下品な男達はジロリと巧を睨みつけた。