雪ちゃんの誕生日



「でも、やっぱりこっちかしら」
「…まだ着せる気?」

「もちろん。写真も撮るわよ?」


 前言撤回。今のユキは悪魔だ。

 そもそも事務所内で二人で見るってわかったときになんで気が付かなかったんだろう。ユキ自身が着替えるなら、メイクの恵さんがいるはずなのに。

 しかも着てきた服はユキに隠されたから着替えれないし。

 あー俺の馬鹿。




「じゃ、高橋くん呼ぶわね」
「高橋?」

 ユキにそんな名前の友達居たかな?
 そもそもユキに友達がいるのかさえ謎だけど。


「あら?覚えてない?高橋巧って名前のカメラマンが居たでしょ」
「……え?」

 まさか、たくみ?あの、俺様人間高橋巧?

 なんでなんでなんで!体中に汗が滲んだ。目を見開く。

「あら、思い出した?」
「なっ!…なんで巧なの?」



「仲良いから」

 白のケータイがするりと現れて姉は電話を始めた。え、まじかよ!なかがいいから?なにそれ、どういう意味?


「あ、もしもし高橋くん?ええ、ユキよ。ふふ、久しぶりね。そうなのよ、今から来れる?」

「ちょっとユキ!」

 俺は通話を止めようと白の携帯に手を伸ばした。

 髪がフワリと揺れた。

「もう来てる」
「ぎゃ!」


 不意に後ろから抱きしめられ、振り向きながら睨んだ。

 すると、携帯を片手に持ち、にやけた顔の高橋巧と目が合った。

 なんで…、それにしても来るの早すぎだろ。


「……離せよ。」
「なんだアキちゃんか。ユキちゃんかと思った」
「クソ巧。」

 最初から俺だって気が付いてたくせに。いつもの黒縁フレーム眼鏡に灰色と白でボーダーがはいったインナー、ベージュの綿のスキニーというラフな格好の巧は俺の両頬を片手で掴んだ。アヒルの様に口が歪む。

「そんなこと言うのはこの口か?」
「ひゃ、ひゃめろっ!」

 ちょっと痛いし。

「可愛い格好してんなアキちゃん」
「う、うるふぁい!」


「ふふ、高橋くん。私の明をあまりイジメないであげて?」

 くすくす。ユキが隣で柔らかく笑う。

 あれ?珍しい。ユキがヤキモキ妬かないなんて。そう思いながらも俺の頬にあるアイツの手を剥がした。
 巧は俺を無視してユキに微笑んだ。
「ユキちゃん今日も綺麗だね」
「ふふ、昨日も同じこと言ったわ」

「…昨日?」

 二人が顔を見合わせて微笑んでいる。え?どういうこと?だめだ、今日は振り回されてばかりで頭が付いていかない。


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