雪ちゃんの誕生日



「似合ってるわ明」
「…絶対おかしい」


「あら、可愛いわよ?」

 ギュッと服を握り締めた。なんで、ユキの格好させられてるんだ!





「お願いよ」

 ユキの誕生日を一週間後に控えた昨日、ユキ本人から誕生日のパーティーのことで相談を受けた。透き通るほど輝く瞳を潤めかせ、当日のドレスが決まらないから一緒に選んで欲しいと哀願された。

 業界内のネットワークを深めようと仕事熱心な母の策略が見え見えのバースデーパーティー。その主役である姉が失敗するなど許されない。それが暗黙のルール。適当に衣装を選んだら母になんて言われるか。それがわかっているから迂闊には選べないのだろうか。

「明、お願い」

 引っ込み思案なユキ自ら望んだパーティーじゃないし、しょうがないよな。俺に何が出来るかわからないけど、助けてあげよう。

「いいよ」
「ありがとう明」

 これが全ての間違いだった。





「…で。なんで、俺が着なきゃいけないの」
「明が着てくれた方が客観的に見れるでしょ?」

「…。」
 嘘だ。そんなの言い訳だ。俺はあれよあれよという間に、姉そっくりのカツラをつけ、化粧までさせられ、ピンクのドレスを着せられている。

 これでユキそっくりになれるのだから、血の繋がりとは怖い。


「ちゃんと立ってくれないと判らないわ、明」
「あ、ごめっ」

 うなだれていた背骨をピシッと立てる。無理矢理作られた胸を張り、肩を下ろして、そっと手を前で組んだ。目の前の大きな鏡を見つめる。

 うわ、俺の後ろにユキが立ってるはずなのにユキが二人いる。ドッペルゲンガーに遭遇したみたいで、眉をぐにゃりと歪ませた。柔らかくウエーブした髪が鎖骨に当たってむずむずしている。

「……。」
「ユキ?」

 無言になったユキの顔を覗き込む。何か言ってよ。着せたのはユキなのにいたたまれないじゃないか。するとユキは俺を抱きしめた。え?


「可愛い!」


 満面の笑みを浮かべたユキを見てげんなりしてしまった。

「……同じ顔だけど」

「違うわ。明が可愛いのよ。明に顔が似て、私は幸せだわ」
「…ふっ、あっそ」

 思わず笑ってしまった。そう言ってくれるのはユキだけだ。他の人は「YUKIに顔が似てて」と口を揃えるから。 幼い頃から姉と並べられ比較される日々。光り輝く大人の世界。手を繋いで互いが泣く度に互いが慰めた。その頃から姉は俺が一番だったと聞いている。俺だって亮が現れるまでユキが世界で一番好きだった。同率一位の父さんの存在はあったけれど。

 そんなユキが楽しそうに笑っているから俺も嬉しい。


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