明くんの災難



「吐きそうになったら言えよ」

「…大丈夫です」

「強がるなって」

「(…。)」





「……先生?」

 すると、隣のベッドから聞いたことがある声が聞こえた。柔らかくて男性にしては少し高めの声。

 巧の大きな手によって、カシャッとカーテンが開けられた。金髪の髪に白い肌、薄い赤茶色の目。

 ああ、やっぱりだ。声の正体は生徒会会計長のチカ先輩だった。

 先輩は慣れた手つきで赤色のネクタイを結んでいた。さっきまで寝ていたのか鎖骨部分がいつもより多めにはだけいたし、中性的な見た目のせいだろうか。どこか色っぽい。

 日本人には真似できないフランス人形の様になめらかな肌、長い睫毛。これはさすがに不可抗力だが、俺は先輩にドキリとした。



「おうチカ、起きたのか。まだ寝てていいぞ」

「んー。でも、もうすぐ2限始まるでしょー…あれ?明くんだ。おはよう」

「…お、おはようございます」

 金髪の彼は、腕を伸ばしふわあ、と可愛らしく欠伸をした。その顔には疲労の色が見える。


 俺はハッとした。


 生徒会役員は仕事が多く忙しいと聞くがそのせいだろうか。

 確かに、4月は行事が重なるし今年はメンツが華やかな分大変なのかも。何でもそつなくこなしてる様な人がこんなになるなんて相当だ。


 あ、顔色って俺人の事言えないか。




「明くん、顔色悪いけど風邪?大丈夫?」

「あ、いえ。大丈夫で…」

「ひでー顔して何が違うんだよ。」

「…うるさいな。巧は仕事しなよ。あの…、チカ先輩も体調が悪いんですか?」

「ふふ、まあね」

 巧を煙たがる俺を見て、へらりといつもの笑顔をそこに浮かべた。佐々木からは何も聞いてないけど、アイツが落ち込んでないってことはこの人と付き合ってるんだよな。


 チカ先輩と佐々木。太陽と月の様な性格の二人。気にはなるけど、チカ先輩には「佐々木はどうですか?」なんて直接聞けないよな。


「アキ、お前はもう寝ろ」

「わぷっ、」

「吐くときは声かけろよ」
 バサッと毛布をかけられて、カーテンを閉められ世界がクリーム色に染まった。
 ベッドの上に中途半端に座っていても仕方がないので、「…吐いたりしません」とだけは呟いて俺はゆっくりと横になった。




 カーテンの向こうに二つでもの人影が揺れる。

 ゆらゆらと。


 そして外から二人の声が聞こえた。ベッドで休む俺がいるから抑えているのか会話は小声で、途切れ途切れ耳に入る。




 クスクスと笑い声が聞こえた。チカ先輩だろうか。


「明くんと仲良しなんだね」

「ちょっとな。それよりチカ、無理するなよ」



「あはは、先生がさせてるんでしょ?」

 俺はいつの間にか耳を澄ましていた。先生がとはどう言う意味だろうか?



「ふふ。冗談ですよ、そんな顔しないで下さい」

「チカ、」




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