明くんの災難



「おはよー!明」

「お、お、おはよっ。ふう」

 良かった、間に合った。教室に滑り込むと同時に鐘が鳴った。教室は朝の気ダルさと眩しさからザワザワと騒がしくうるさい。


「なんか、ゼーゼー言ってるけど。走って来たのか?」

「うん、遅刻するかと思った…はぁ。」

「珍しいな。明がギリギリに来るなんて」

「ちょっとね」

 へらりと笑う。あー…。また、はぐらかしてしまった。

「ふーん、あの人の家?」

「…まーね」

 佐々木には恋人について話したところだから、亮のこと言っても平気だとは思うけど、どれだけ自由な社会と言えど公共の場しかも学校で、ここにいる人全てが同性愛に寛大な者達ばかりだとは言えない。


 偏見を持たれたらどうしようかと、つい億劫になってしまう。


「顔色悪いぞ、大丈夫かよ」

 “誰のために走ってきたと思ってるんだよ。”そう突っ込もうとして止めた。
 誰の為って、結局は自分の為だよな。



 肩で息をする。まだ苦しい。どれだけ大きく吸っても上手く肺に入ってない気分だ。

「…大丈夫。ありがとう」

「明、お前…」

「ん?」
 佐々木が何か言おうとした時、チャイムが鳴り響いた。生徒達はパタパタと各々の席に着く。佐々木は小さく「なんでもない」と言うと、自分の席に戻って行った。俺も席に腰かける。手で、サラリと額の汗を拭う。

 ふう、疲れた。昨日はあまり眠れなかったのに朝から走ったから、目が回るかと思った。


 いや、今もまだ目が回っているかも。気持ち悪い。嫌味担任の事を考えたせいかな。

 休みたいが、保健室なんかには絶対行きたくないし。





「…ら!…きら!」

 あんな奴がいる場所、誰が行くか。

 あんな奴…


「明、あーきーら!」

「へ?」


「ホームルーム終わったよー。一限は吉岡センセの生物だから移動、って本当に大丈夫か?…無理してんじゃねーの?」

「してないよ。はいはい、生物実習室行こ」

「お、おう」

 俺は隠す様に笑顔を浮かべ、佐々木の背中を押した。二人は、歩き始めた。


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