明くんの災難



俺は走った。


 本格的に急ぐことにしたのだ。やばい。遅刻する!頭にはそれしかなく、全力疾走で駅に向かった。





 俺の焦る思いとは裏腹に、颯爽に風景が流れる。春色のピンクだった桜は、もう青葉の緑に変わろうとしていた。


 走りながら嫌な事を考える。クラス委員が遅刻はタブーという事と大嫌いな担任の顔だ。


 鷹山学園のクラス委員は進級試験(または高校受験)の成績で決まる。そしてそのまま一年間生徒会の補佐を続け、高成績を保つと生徒会役員にレベルが上がる仕組みになっている。


 つまりは一年の入学時点で生徒会候補は決まっているという事になる。

 もちろん例外もあるが。



 因みに、今年みたいな副会長が転入生と言うパターンは例外に近いそうだ。
 …例外だとしても次生徒会役員候補の現役生には関係ない話だから別にいいけど。



「やばっ、あと二分で電車行っちゃうよ!」


 そして、クラス委員になるとその代償としてクラス…いや、学年の模範生となり自由を奪われる。



 大袈裟と思われるかもしれないが、うちの担任を見たら納得するだろう。脂ぎった髪に、つり上がった目。それを隠せない鼈甲眼鏡。自信満々な態度が彼の歩き方にすら浸透している。
 遅刻なんかしたら、彼から何て言われるか。嫌味な担任はこれでもかとチクチクねちっこく問いただすに決まっている。

 あの先生の相手、苦手なんだよな。…はあ。俺は頭の中で溜め息を吐いた。副担に相談しようとしても、ガリガリ猫背眼鏡の吉岡先生(佐々木がこう呼んでいた)は嫌味担任には勝てないから役に立たないし。吉岡先生は良い人な分早死にしそうなタイプの人だからなあ。


 吉岡先生はさて置き、その嫌味担任は、佐々木が気に入らないらしく「クラス委員らしくない」となぜか俺に注意する始末で。
(佐々木には言ってないけど…)


 ああ、嫌になってきた。急がないと。

 成績制の役職なんか興味はないけど、友人のしかも佐々木がとやかく言われるのは嫌だ。



俺は大きく腕をふった。



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