明くんの災難



「んー?」

 走って玄関に向かうと亮が俺を呼び止めた。急いでるのに、何?


「今日、俺撮影7時上がりだけど、アキは?」

「あっ、ごめん。今日は佐々木と遊ぶ約束してて」

「…またアイツ?」

 むすっ、と亮の眉が歪む。俺の口から出る男の名前。後ろめたいことは何もないから俺はなんとも思わない様にしてるけど。

 あからさま過ぎるだろ。


「ただの友達だよ」

「……。」


 また、拗ねる。亮は特に佐々木を良く思っていないらしい。俺の親友なんだけど、嫌いなのかと尋ねても「まさか」と笑うけれど。

 歳が違い長生きしていると言えど、その差は片手で足りるし、亮だって結局はガキのくせに。


「亮」

「…。」

「ねぇってば」
 もう、仕方ないなあ。


「亮こっち向いて」


 両手を広げ、俺は靴を履いたまま思い切り飛び付き、唇にちゅっとキスをした。

 自分でも驚くほどアクロバットな動きだったと思う。


 亮は一瞬だけ目を丸くし、そして、俺を抱き締めた。(この動きは速かったな…。)




 その動きは、本能に従い風の様に生きてる亮らしかった。

 俺は深く息を吸い、抱き締められたまま微笑む。


「……機嫌直った?」

「もう。なんでアキはそんな可愛いこと出来るの?」

「はあ?可愛くないって」

「無意識?余計タチが悪いよ。アキは世界一、いや宇宙で一番可愛い俺の恋人だって」

「なにそれ」

「知らないの?真実だよ?」

 フフと微笑みながら、薔薇が舞う様な歯の浮く台詞を素面で吐く神経は俺には到底真似出来ないが、嬉しそう。良かった。たちまち亮は笑顔に変わり、ちゅっちゅっと頬や額にキスをした。


「も、急ぐから」

 流石に時間を忘れることは出来ず、ぐぐいと押し返す。先程の鉄拳の事もあるせいか、すんなり腕をほどいた。彼はうつむき、「ごめんね」と恥ずかしそうに微笑む。拗ねたことだろうか。俺は「いいよ」と答えると、亮は俺の額にまたキスをした。



「いってらっしゃい。大好きだよアキ」

「うん、行ってきます」


 軽く手を振ると、バタン!と金属の扉が大きな音を立てて閉まった。


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