家から学校までと、亮が住むマンションから学校までは、電車のルートが多少違う為、15分程ではあるが、こっちの方が遠い。
それでも恋人として、月に一・二回(…時にはもっとかも)必ず平日に亮の部屋に泊まって行く。
平日に泊まる理由は、休日だと雪(ゆき)が「浮気だわ、抜け駆けよ!」と、涙を浮かべ大声で喚き、うるさいからだ。
本当は、休日に泊まって俺もフカフカの布団の中で寝ていたいんだけど。
でも、俺は雪にも愛されているから邪険には出来ないし。
俺にとっては姉も姉で大切な人だから、波風を立てたくは無い。
そんな事を言っても片方は家族で片方は恋人なのだから、いずれかどちらを選ばなくてはならない日が来るのかもしれないけれど。
きっとその時はその時。今はどちらも大切だ。
我が儘だってのは判る。でも、二人とも好きなんだ。
悲しませたくない。
「んー、やっぱりまだねむ…ふあぁぁ。」
ああ、こっちまで移りそうな欠伸。普段は見ることが出来ない眠気に満ちた顔。ああ、ダメだ。それすら愛しい。
チラリと目線を横に移すと、亮の部屋にあるクラシックな時計は規律めいた音を鳴らし7時前を指している。
「なんか飲む?俺あと10分ぐらいで学校行くけど」
「じゃコーヒーがいいな。ほんと、学生は大変だね」
「大変だよ。どっかの誰かさんみたいなニートだったら楽なのになあー」
俺は自由人の亮ににやりと皮肉めいた風に笑った。この部屋の物だって海外にまで買い付けに行ったりしている位だ。風のような存在過ぎて、寂しくもなるが。
「ちょっとちょっと!俺ちゃんと働いてるから」
俺は「あはは」と笑う。ちょっと寝惚けてるのが間抜けだ。
「もう、ちゃんとわかってるの?」
「わかってるよ、コーヒーいらないの?」
「いります!」
「はい、どうぞ」
そう言って手際良く煎れたコーヒーを差し出す。
ついさっきケトルでお湯を沸かしていたから、まだ温かいはずだ。その証拠に湯気が上がり香ばしい香りが俺と亮を包んでいる。亮は「ありがとう」と受けとると一口飲んで微笑んだ。
「美味しい、ありがとうアキ」
「いいえ。どう致しまして」
俺は返事をしながら、ブレザーを羽織った。4月とは言え、朝は少し涼しい。
「アキは素敵な奥さんになるね、俺の。」
「なっ。」
「好きだよ」
「わっ、んん…」