明くんの災難



 抱き締めると嬉しくなる。

抱き締められると幸せになれる。


 その温もりは、きっと限られた時の中でしかないとは思うけれど、だからこそ大切にしたい。


 鏡の前でネクタイを締めていた俺は、目の前の男をふんわり捕らえながら色素の薄い髪を揺らし微笑んだ。

「おはよう、亮 起きたんだ」

「……おはよー。アキ、何してるの?」

 ふわあ、と腕を伸ばし大きな欠伸をする亮に目を細める。白地に腕の部分だけ黒いロンTにグレーのスエット。寝間着だからだけど、ラフ過ぎる服装だ。


「ん?着替えてるけど」

「あー、学校ね。ふぁーあ。ねむ」

「あはは、まだ寝てるの?」

「んー、ちょっと ね」


 無意識なのか、ポリポリとお腹をかいているせいで引き締まった身体が見えた。

 ――うっ。

俺は不覚にもその仕種にドキッとしてしまった。

 昨日の夜、全身を見たとこなのに。むしろそれを思い出して、なんだか恥ずかしくなってきた。

 そう言えば、昨日も夜は長かった。ぼんやり思う。


 そしていつも思うけど、亮って細いけど意外と筋肉質なんだよな。ああ、同じモデルとして羨ましいほどの肉体美。

「なーに、どうかした?」

「っえ! う、ううん。眠そうだなっと思って…うん、半分夢のなかみたいだから」


 うっとり見つめてましたなんて言えない。俺は適当に話を合わせ、顔をひきつらせながらもニッコリ微笑んだ。



「ふふ、眠いよ。まだ7時じゃん。俺の可愛いアキは早起きだね」

「……何、そのセリフ。やっぱり寝ぼけてる?」


 事務所に10時出勤の亮は、いつもなら今はまだ奥の部屋のフカフカな布団で小さな寝息をたてて寝てる時間だもんな。しかも寝たの今日で遅かったし。


「やっぱりてなんだよ。んー、ねむ…いや、起きてるよー」

「どっちだよ。まぁ、こっちからだと学校まで40分かかるからね」

「そっかぁー。ごめんね、遠いのに」



 申し訳なさそうにしょんぼりと目を伏せる亮に、しょうがないよ。と言いながら、思わずふふっと笑みが溢れた。

可愛い。
「俺が来たいから来てるんだよ気にしないで」
「アキ、」

 不謹慎だろうか、俺はこうやって申し訳なさそうに笑う亮が好きだ。


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