「二人とも、ストーーップ」
見上げるといつのまにかアイツが部屋に入ってきていた。黒縁のだて眼鏡に緑のチェックのシャツ姿。私が今一番見たくない男。
「…りょー」
「あき。おいで」
「行っちゃだめっ!」
とっさに手が動いた。涙はまだ止まらない。明だって泣いたままだ。
「わかった、わかった」
そう言うと宮元は、明の隣へ座り、明をそっと抱き締めた。
「…、…見せつけに来たの?」
「違うよ、二人の大声廊下まで響いてスタッフが心配してたから見に来ただけ。」
慣れた手付きで明の髪を撫でる宮元。その顔は緩んで、愛しいものを見る目をしていた。嫌だ。見たくない。
「泣きすぎだよ、あき」
「ごめ、」
「私から明をとらないで」
「とらないで?明は物じゃないよ。俺は明を所有するわけじゃないし」
「だったら返して」
「だから、明は俺が好きだけど、明はあんたも好きなんだって」
「……は、」
「それでいいだろ?勝負はこれから」
宮元はにやりと笑う。ああ、そう言うことか。この男は馬鹿だ。優しい馬鹿。明のことを思いやれる大馬鹿野郎なのね。笑える。
「これで、同じスタートラインに立てたってこと」
二人で必死に考えたんだろうか。私が傷つかないようにって。
明なら、しそうだから泣きそうになる。嬉しいよ。
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