明くんの憂鬱



「………、は?」

 思わず顔をあげれば、今にも泣き出しそうな亮と目が合う。

 え?


「今だって、こんなになってるん、だ。俺は昔も今も明しか見えない。それに恋愛感情を持ってなかったら男相手に欲情しないだろ?」

「昔っていつ…!」

 なぜか俺の手をとり、亮の下半身に当てられた。それまで触りもしてなかったのにその存在を誇示している。きゃ。

 真面目に馬鹿だ、コイツ。


「はじめて会った日から好きなんだ」


 はじめてってお互い小学生だったじゃないか。

まさか、それからずっと?


「…可笑しいよ、亮は」

「これでわかった?」

「わからない。だったら雪は?」


「あれはストーカー対策だよ、社長命令。」


「…なんだよそれ」

 母さん命令?そういや前にストーカーがどうたら言ってた気はするけど。


「ごめん。明にも秘密にしないとだめだったんだ。それに明と対等に立ってフラれるのが怖かったんだ」


「ちょっと待って」

「まだ信じられない?」

 亮はそっと微笑む。割れ物を扱うように慎重に。


「俺、雪に亮とのこと尋ねたら「あげないわ!」て怒らせたことがあるんだけど」

「それはアイツがあきのこと好きだからでしょ?」



 は?アイツって雪のこと?


「何言ってるの?雪は好きだよ。きょうだいだし。」

 だから雪のその一言で自分が嫌になったんだ。

 雪の幸せを奪うことは俺には出来ないから。



「違うって。アイツはそんなの関係なしに明が好きなんだよ!だから雑誌の取材も勝手に断ったりしてて。」

「雑誌ってなに!」

「え、明の特集とか…知らないの?」

「…知らないよ、そんなの」

 なんだよ。雑誌断るって。俺が人気もないて思ってたのは雪の勝手なマネージメントもせいってこと?



「だから俺、明を守るためにも恋人のフリしなきゃって」

「…ばかだね」

「人を好きになるのは、そうゆうことだろ?がむしゃらに繋ぎ留めたくて。動くんだよ」

「本当にばか」


「そう、ばかだよ。明を泣かせた最低野郎ですよ」

「ばか。俺だって好きなんだから。そうじゃないと、犯罪者だよ、亮」

「アキのためなら犯罪者でもいい。」

「ばかじゃないの!」

「ここ出しっぱなしで言われても説得力ないから」


「ぎゃっ!」

 そうだ。今思いだしたら、俺だけ下半身寛げたままだった。恥ずかしい。急いで直すと小さな衣擦れ音と金属音が交互に響いた。


「もう死んでも離さない。」

「死んだらさすがに離してよ」

「やだ。アキが死んだら身体全部食べてあげるからね。ここも」

 はき終わった股間部分をくるくると人差し指で撫でまわされる。半分ぐらいは本気なんだろうな。


「あは、意味わかんないよ、ははっ」




「ねぇ可愛いアキ。抱き締めたいんだけど、いい?」

「もう。ほら、」

 俺は畳に改めて倒れ、大きく腕を広げた。そっと微笑む。


「好きだよ」




 俺も好きだよ。大好き。




 そして、俺はスタジオを遅刻してしまった。



END


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